第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
「や、ぁっ・・・!!」
・・・舌だ。
彼の舌が、首筋を這っている。
生暖かい感触が妙に敏感に伝わり、落ち着きかけていた体のザワザワとした感覚が元に戻ってきて。
「おき、や・・・さ・・・」
吐息が。
感触が。
全てが過剰に届いてくる。
耐え切れず、言葉を出す代わりに彼の名前をもう一度呼んでみるけれど。
「ひなたさん」
諭すように、彼はわざとらしく私の名前を呼んだ。
呼ぶのはそちらの名前ではない、と言葉無く指示をされ、軽く唇を噛んで眉を寄せるが、ミスをしたのは私だ。
「昴・・・さ、ん・・・」
一度彼に言われたにも関わらず、ファーストネームではない方を呼んでしまったことを嫌々反省しつつ、彼の服を掴んだまま名前を呼び直した。
「・・・はい」
それに対し彼は妙な間を作った後、何とも言えない声色で返事をした。
別に返事が欲しくて呼んだのではないが、と服を掴んでいた手の力を緩め始めた時。
「や・・・っ!!」
体に一瞬にして、ビリビリと電気が走るような感覚を覚えた。
「待っ・・・!」
彼がスカートの中に忍ばせ下着の隙間に入れていた指が、今度は下着越しに秘部をなぞっていて。
私の感覚が研ぎ澄まされていけば、いく程、思考と注意力が鈍っていく。
・・・その手がそこに伸びていたことにすら、気付かない程に。
「おや、この程度でギブアップですか」
きっと、これは快楽なのだろう。
でもあの時・・・初めてあの人に体を預けたその日も、快楽というものは分からず終いだった。
だからそれが一体どういうものなのか。
私は知ることができていなかった。
「もう少し、骨のある方かと思っていましたが」
「・・・ッ」
こういう時でも、彼は私の神経を逆撫でしてくる。
一種の彼の趣味ではないかと思う程に。