第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
「上出来です」
「・・・!」
その薄ら開けた瞼の隙間から見えた彼の笑顔が。
・・・何故か、赤井さんに見えた気がして。
瞬間、とても背徳的な感情が押し寄せた。
こんな時に、あの人を思い出すなんて。
沖矢さんに、あの人を重ねるなんて。
・・・これは、双方に失礼なことだ。
「ッ!!」
反省のような言葉を心の中で繰り返していると、沖矢さんの手が徐ろにスカートの裾から大腿部を撫で上げてきて。
「待っ・・・」
その感覚に思わず静止をかけ、彼の手を掴んで拒んでしまった。
これは練習だ。
こういうことに慣れる為の。
一々止めていてはキリがないのに。
「不快、ですか?」
彼は小首を傾げ、私の様子を伺うように尋ねてきて。
・・・普段はそんな気遣い見せないくせに。
こういう時は優しさを見せるのか。
「い、いえ・・・」
すみません、と小さく謝罪をすると、掴んでいた彼の手からゆっくりと手を引いた。
・・・私には時間が無い。
それは自分で作ったタイムリミットだ。
「では続けますよ」
「・・・ッ」
止めるな、怖がるな、震えるな。
そう自分に命令を下しながら、太ももを這う彼の手の感覚を名の通り肌で感じた。
「相手のペースに任せても構いませんが、その場合は飲まれないように」
それは承知しているつもりだ。
でも、自信は無い。
その自信をつける為の訓練でもあるのだけど。
「まずは、覚えてください」
足の付け根まで伸びた手は、腰辺りの下着の隙間に指を入れられて。
さっきまでは無かった、ゾクッとする感覚に小さく反応してしまった。
「どこに触れられると弱いのか、どこで感じてしまうのか」
彼の片手は私の足へ、もう片方の手私のは首筋を這い、耳元へと来て。
その瞬間、先程の悪寒に似た感覚の更に強いものが、首筋を中心に全身へ広がっていくようだった。