第1章 朝日は終わりを告げた
スタンガンは最近準備した物だとしても、携帯は新しい機種でもないのに、同じ様に傷が少ない。
小銭と一緒にそれらがポケットに入っていたのなら、ライターのように傷だらけになるはずだけれど。
可能性としては、携帯と・・・恐らくスタンガンも、男の物ではない。
だとすると、これは。
「・・・・・・」
ソファーに座り涙を見せる樫塚圭さんは、兄の遺品だというコインロッカーの鍵の調査依頼でここに来た。
けれど毛利探偵の助手と名乗る、自殺した男に出迎えられ、スタンガンで気絶させられた。
気が付いたらガムテープで拘束され、ブーツを脱がされ靴紐まで抜かれてトイレに押し込まれてしまった。
そこに、当初の待ち合わせ場所だったレストランコロンボから戻ってきた毛利さん達にバレて逃げられないと焦った男は、自ら銃で命を絶った。
男は、樫塚さんの持っていたコインロッカーの鍵について聞いては脅していたようだが、そもそも彼女がそれを依頼に来たのだから、当然知る筈も無く。
その所在については警察の人達が調べていると聞いた。
男と樫塚さんの面識は無かった、樫塚さんからも発射残渣が殆ど出なかったと言っているのも聞いた。
その中で少し、引っ掛かるのは。
「ひなたさん?」
「え?」
机に並べられた物を横目で見ながら状況を確認していると、安室さんから声を掛けられて。
・・・しまった。
集中し過ぎていた。
「何か、お気づきの点でも?」
「あ、いえ・・・。どうしてここに立てこもったのかな、と思ってただけです」
・・・ここは私が考える場所でも、あれこれ口を出す場でもない。
探偵が三人もいる上に、警察も動いている。
それに私は、この男から目を離すわけにはいかないのだから。
「確かに、そうですね」
言葉としては、ただの納得している言葉なのに。
それ以上に気付いている事があるのだろう、とでも言いたげな声色に、ただ樫塚さんを心配しているだけだと返すように、彼女へと視線を移した。