第1章 朝日は終わりを告げた
「どうして私に?」
階段を登りきる頃、何となく彼にそう尋ねてみた。
現場を見てしまったから、という理由が一番ではあるが、彼なら恐らく。
「ひなたさん、何か気付いてそうだったから」
そういう見方をするのだろうな。
彼は私を、ただの一般人としては見ていないから。
そういう印象を与え続けたのは間違いない。
それでも私は、あくまでも一般人を装うけれど。
「・・・何も気付いてないよ。それに、毛利さんもいることだから」
私の出る幕ではない。
そう伝えてみるが、彼の意思は固かった。
コナンくんにそういう風に見られるようになったのは、以前彼と一緒に事件に出くわした事が切っ掛けで。
事件は眠りの小五郎によって解決されたが、彼からはそれ以来、以前とは少し違う視線を向けられるようになった。
ただのポアロで働く店員ではなく、怪しい人物の一人として。
「おじさんでも見逃すことはあるから」
だからお願い!と子どもらしく頼まれれば、無下に断ることもできない。
まあ、断るつもりは最初から無かったけれど。
彼に手を引かれるまま探偵事務所に入ると、ソファーには縛られていた女性が居て。
上着を肩に掛けているが、その体は震えているようにも見えた。
そして私が最も気にするべき人物・・・安室透は、事務所を鋭い目付きであちこち観察していて。
まだ直感の段階ではあるが、この事件に彼が直接関わっている可能性は極めて低いと思えた。
ー
あれから、毛利さん達の依頼内容や、事件に至るまでの経緯を簡単に教えてもらった。
依頼者である樫塚圭さんは、単純に巻き込まれたように見えるが、まだ気になる点がいくつも残っている。
その後、警察関係者によって被害者の所持品が机に並べられたが、そこにも幾つか引っ掛かる点があった。
「・・・・・・」
小銭と共にポケットに詰め込まれていたという物。
タバコやライター、携帯にスタンガン・・・それらが入っていることは分かったけれど。
・・・ライターだけが傷だらけだ。