第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
「では、誰との約束ですか?」
「・・・コナンくんです」
ここで変に嘘をつけば、後が困る。
組織にいる頃は、平気で欺く嘘を吐いていたのに。
如月ひなたと安室透という関係上、この息苦しい会話は続けなければならない。
「コナンくん・・・ですか」
バーボンとウェルシュという関係であれば・・・こんな猫被りな態度も取らずに済むのに。
「でしたら妙ですね」
そんな事を脳裏で考えていると、彼は僅かに笑みの種類を変えながら私に横目で視線を送った。
何が妙なのか、と小首を傾げて彼に顔を向けると、車は赤信号でゆっくりと止められた。
「探偵事務所ではなく、ポアロで降ろして、なんて」
「・・・・・・」
・・・そんな事に引っ掛かりを覚えたのか。
相変わらず細かい人だ。
・・・彼らしい、とは思うが。
「言ったじゃないですか。忘れ物があるからって」
「何をお忘れで?」
・・・本当に私は今日、コナンくんと会うことができるのだろうか。
もう既に不安になってきた。
「エプロンです。洗濯しておこうと思っていたのを、忘れていて」
やはり私には、彼に取り入るなんて無理なのではないだろうか。
体より先に、心が拒否を示しているのに。
「成程。では、目的地まで送って行きますよ」
こんな小さなミスを、突きまくるような彼に。
「探偵事務所は、目的地ではないのでしょう?」
「・・・・・・」
最初から、探偵事務所で降ろしてくれと言っておけば良かった、なんて後悔は遅すぎるし、しても意味が無いけど。
「悪いですよ」
「いえ、車ですからすぐですよ」
それくらいしていないと、そろそろこの笑顔も引きつりそうだ。
「とりあえず、まずはポアロに向かいましょうか」
もう何を言っても無駄なようだ。
とりあえず今は彼に従うしかない。
あとは適当に目的地を言って降ろしてもらおう。
・・・降ろしてもらえるかは、今の所微妙だが。