第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
「・・・ライバルが増えましたね」
彼の車の前まで着くと、私が助手席側に辿り着くより先に、彼はそんな事を言いながらドアを開けた。
この流れからして、彼が言ったライバルとは。
「コナンくんですか?」
あの小さな探偵のことか。
「ひなたさん好みの、知的な男性でしょう?」
「流石に小学生には手を出しませんよ」
車に乗り込む前に、ドアの縁に掛けられた彼の手に気づいた。
頭を打たないようにわざわざ添えられたそれに、更に女性の扱いに慣れを感じざるを得なかった。
「小学生には、ね」
私の返答に、彼は運転席に乗り込んでから独り言のように、そう呟いた。
「・・・・・・」
何か含んだような言い方に、引っ掛かりはした。
けれど、その引っ掛かりは私も似たようなものを持っていたからか、それ以上不審には思わなくて。
程なくして発車された車内では、特に中身のある会話はせず。
こちらの探りを入れられるようなことも無く、ただ静かに時は流れた。
「あ・・・すみません。私これから用事があるので、ポアロで降ろして頂いても良いですか?」
そろそろ米花町に着く頃だ。
一度家に帰りたい気持ちはあったが、このまま直接向かわなければ、隣に住む彼に着いて来られるかもしれない。
だからなるべく、途中で別れておきたかった。
「・・・どなたかと約束ですか?」
彼はよく、質問を質問で返す。
今回もそうであることに、心の中で小さくため息を吐くと、一瞬だけ彼の表情に目を向けた。
「ええ、まあ」
笑顔は崩していない。
けれど、こっちの笑顔が崩れそうで。
「最近、仲が良いんですね」
・・・探られる。
少しずつ、首に手が掛かってくるようだ。
「沖矢昴という、男と」
彼の名前が出ても、動揺は出さなかった。
逆に、多少慌てた方が良かっただろうか、と後から思ったが。
「沖矢さんとは言ってませんよ」
嘘ではない。
私がこれから会うのはコナンくんだから。
どこかそう言い聞かせながら、淡々と返事をした。