第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
そして、話は現在に戻る。
バーボンと車内で2人きりになる日が来るなんて、誰が予想できただろうか。
ほんの1ヶ月程前までは、ただ平穏に小さな探偵さんを見守っているだけだったのに。
この男が現れたおかげで、全て変わってしまった。
その理由も、未だ掴めないままなのに。
「考え事ですか?」
こういう時、会話が途切れてはいけないのだろうな。
彼がそう尋ねてくるまで、そんな事にすら気付かなかった。
「彼の事・・・でしょうか」
そこでどうして沖矢昴の事が出てくるのか、些か疑問ではあるが。
「そうです、って言ったらどうしますか?」
結局、この男には取り入らなければならない。
少しくらい思わせ振りな態度を取っても構わないはずだ。
日本ではこういう時、バチは当たらないはず、と言っただろうか。
「僕といる時は、僕のことだけを考えてほしいですね」
まあ、概ね必然的にそうなるが。
嫌でも隣にいるのだから。
「安室さんって、やけに沖矢さんのことを嫌いますよね」
「ええ、まあ。恋敵ですからね」
本当に、どこまでが本音でどこからが冗談なのか分からない。
せめて目的が分かれば楽なのに。
・・・いや、それよりも。
彼がバーボンだと名言してくれる方が余程、救われる。
「・・・僕は、真っ向勝負しますよ」
「?」
沖矢さんと?と、尋ねるように小首を傾げながら、運転する彼の横顔に目を向けて。
「例え貴女が沖矢昴という男が好きでも」
「!?」
そして、真っ直ぐ力強い視線を前に向けたまま、とんでもないことを口にした。
何がどうなって、そういう思考になったのか知らないが、何故私が沖矢さんを。
・・・という所まで考えて、ふと冷静になった。
この方が都合が良いのか、と。
「そう・・・見えますか」
確かに、距離で言えば沖矢さんの方が既に近いかもしれない。
でもそれはお互いに、ある程度の素性が知られているからで。