第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
てっきり、上の階に住む探偵事務所の誰かかと思ったのに。
私に続いてバックヤードから出てきた安室さんも、彼を見ては怪訝そうな表情をした。
「開店前にすみません。忘れ物がありましたので、散歩ついでに寄らせて頂きました」
・・・ああ。
言うよりも先に彼が答えを示してしまった。
もう言う手前だった為、それは良いのだけど。
それ以上は安室さんの表情も確認できないまま、差し出された紙袋を受け取りに近寄って。
「あ、ありがとうございま・・・」
問題だったのは、彼からその忘れ物だという紙袋を受け取り、中身を確認したときだった。
「!!」
そこには、明らかに自分の物ではない、少し派手な下着が入っていて。
思わず驚いて体ごと動揺してしまった。
「どういうつもりですか・・・!」
食い掛かるように、けれどなるべく小声で。
紙袋を抑え込むように抱えると、顔が熱くなる感覚の中、彼をキッと睨みつけた。
「貴女のそんな顔が見たくて」
クスッと笑う彼に、腹立たしさが追加されていく。
面白半分、というのも間違いないとは思うが・・・きっとこれは、彼からのありがた迷惑という物で。
「似合うと思いますよ」
「・・・ッ」
これを着て、バーボンに近寄れとでも言うのか。
そしてそれを、バーボンの目の前で渡すということに、酷く意地悪さを感じる。
・・・いや、これに関しては偶然だろうか。
私も、安室透がここに来るとは思っていなかったのだから。
「・・・・・・」
でも、だとしたら。
沖矢さんがここにこれを持って来た理由は・・・本当に私の間抜け面を見に来ただけなのか?
・・・でも、そう思えないのは何故だろうか。
「・・・用が終わったなら、出て行ってもらえますか。まだ開店準備中なので」
後ろから、私と沖矢さんとの距離を離すように肩を持って後ろに下げられると、彼は沖矢さんを蔑むような目付きで睨んで。
毎回のようにここで喧嘩するのは、本当に勘弁してほしい。
それも同時に伝えるように沖矢さんへ、早く帰ってほしいと目で訴えた。