第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
「今日は、あの喫茶店ですか?」
彼が準備した朝食をキッチンのカウンター席で食していると、徐ろにそう聞かれた。
「・・・今日は、というより今日も、ですが」
一度彼に視線を向けた後、再び皿に視線を戻すと、少しの間をあけて答えを出した。
今日は来ないでほしい、というつもりで視線を向けたが、彼はそれが伝わった上で反抗してくるのだろうな。
「あの喫茶店での仕事が不服ですか?」
彼は私が食べる様子を少し離れた位置で見届けながら、再び質問を重ねた。
根掘り葉掘り聞いてくるのは、組織にいた頃の名残なのだろうか。
それとも、現行の仕事もそうだから・・・なのか。
「言われた仕事ですから」
最後の一口を胃に押し込み、彼が入れた紅茶も飲み干して、質問にはそう答えた。
不服かどうかで仕事なんてしていられない。
そもそもこの日本で私達ができる仕事なんて、限られているのだから。
「僕の前では意地を張らなくて結構ですよ。告げ口をしたりしませんから」
・・・それは、すると言っているようにも聞こえるのだが。
そもそも、意地も張っていない。
彼がどこまで口が堅い人物が知らないが、どっちみち知られても別に構わないことだ。
「別に、不服とは思っていません。ただ、最前に立たせてもらえない自分に腹が立つだけです」
真実半分、偽造半分で。
でもその真実がどれなのか、口にしたのは私だが、自分でもよくは分かっていなくて。
「人には向き不向きがありますから」
・・・喫茶店の仕事が、私に向いていると?
やはりこの男も、FBIとしては頼りないと感じているのだろうか。
「だからと言って、私がバーボンに取り入ることに向いているとは、思いませんけどね」
そう言い返しながら食べ終えた皿を片付けようと持ち上げたが、いつの間にか傍にいた沖矢さんにそれを取り上げられると、先に洗われてしまって。
・・・この男、本当に気配がない。
常日頃からそうして生きているというのが、嫌という程伝わってくる。
彼は私のことを熟知しているのに、私は何も知らない。
・・・知っておきたい気はある。
けど、知りたい・・・なんて思いはしないが。