第5章 笑顔と泣顔が行着く先※
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「・・・!」
次に目を覚ました時、体は反射的に起き上がっていた。
自分らしくない眠り方をしたせいか、普段起きる時間と違ったのではないかという不安と。
今、起き上がるこの瞬間まで・・・何の警戒心も働いていなかった事への焦りで。
「・・・・・・」
昨日の記憶はハッキリと残っている。
眠りに落ちる、その間際までは。
ただ、問題なのは・・・沖矢昴という人物よりも早く眠りに落ちてしまった、ということで。
やってしまった、と額に手を当てながら大きくため息を吐くと、窓辺に立ち、外の景色へと目を向けた。
どうやら、寝過ごしたということは無さそうだが。
隣で寝ていたはずのその沖矢昴は、既に姿が無かった。
僅かに1階から聞こえる物音と、微量な食べ物の匂いが鼻を擽ることを考えれば、そこに居ることは間違いないだろう。
昨日着ていた服が見当たらない為、仕方なく昨日借りた服のまま物音のする方へと行ってみると、彼は似合わないキッチンで匂いを漂わせていた。
「おはようございます」
彼は私に気が付くと、いつもの笑みを向けながら挨拶をしてきて。
起きてすぐに挨拶を貰ったことなんて・・・いつぶりだろう。
「おはよう・・・ございます・・・」
変な、気分だ。
昨日は何も無かったはずなのに。
何故か気まずさを感じる。
「朝食、パンでよろしいですか?」
そんな私を知ってか知らずか、彼は何も気にしていない様子で、そんな事を尋ねてきて。
昨日言ったことは、無かったことにされているのか。
「いえ、結構で・・・」
よく分からないものを口にできない。
そう言っておいた・・・はずだけど。
・・・もう、彼には良いか。
そんな諦めにも近い感情と。
「・・・はい」
何故か、彼の作った物なら大丈夫だという、根拠の無い自信があって。
小さく首を縦に動かした。
「すぐ、準備します」
それを見た沖矢さんは満足そうな笑みを浮かべると、その手を的確に動かし始めて。
その、どこか平和ボケしそうな光景に、私は反対に眉間へシワが寄って。
息を長く吐いて、どうにか現実を叩き込んだ。