第4章 どっちつかずの涙の雨
「今日は一緒に眠る練習、ということで」
・・・それを今考えたのは、どう見ても明白だけど。
「・・・・・・」
一理、と言うのか。
前準備としては、私はそれくらいから始めるのが妥当なのかもしれないと、受け入れ始めていて。
それに・・・本来ならこういった事は苦手なはずなのに。
今、この瞬間。
別に嫌ではないという感情が何故か勝っていた。
「・・・・・・」
物は試し、と自分を説得するように何度も唱えながら、少し距離を開けて彼の側へと体を倒した。
彼が腕を伸ばせば、余裕で届く距離。
いつもより心拍数が上がっているのは致し方ないとは思うが、想像よりも遥かにそれが落ち着いていることに、自分でも驚いてしまった。
「素直で良い子です」
彼の差し伸べた手は行き場を無くさせたが、彼は気にしない様子でその手を引っ込めて。
それどころか、距離を開けた私を嘲笑うように小さく笑いを漏らすと、そんな事を言ってきた。
「子供扱いと、馬鹿にするのはやめて頂けませんか」
「これは失礼。どちらもした覚えはありませんけどね」
思わずムッと怒りを顔に表しながら突っ掛かれば、私もそれを誘うつもりは無かったが、彼の小さな笑いを再び誘ってしまった。
「でも、これでは眠る練習になりませんので」
「・・・!」
壁側に転ぶ私を追い込むように。
少し離れていた距離を彼は徐ろに埋めると、私を包み込むように腕の中へと閉じ込めた。
・・・怖い。
本来ならば、そう感じているのだろうけど。
その感情は殆どそこには無くて。
寧ろ、彼から伝わる体温や聞こえてくる心音に、どこか安心感を覚えてしまう。
・・・それは、単純なる人間としての本能なのか。
それとも、相手が彼だからの感情なのか。
答えが出てこないまま、彼の心音を間近で感じている中。
私の意識はゆっくりと、自分でも気が付かない程のんびりと。
静かに、遠のいて行ってしまった。