第4章 どっちつかずの涙の雨
「先程も言いましたが、貴女でないと意味がありません」
・・・背中側から聞こえる彼の声は、先程よりもどこか真剣さが増していて。
一応、彼の中で私は評価されているのだろうか。
「バーボンは貴女しか見えていないことを、よく覚えておいてください」
「・・・・・・」
まあ、見込みがなければこんな事に手を貸さないか。
・・・流石に、全て彼の私情という訳では無いだろから。
「さて、今日はこれくらいにしておきましょう」
「!」
肩を揉んでいた彼の手が徐ろに離れたかと思うと、沖矢さんは突然、終了の言葉を口にした。
まだ何もしてないのに、と驚き振り返ると、彼は白々しい表情で私を見ながら首を傾げて。
「おや、どうされました?」
態度と同じ声色で、わざわざ私の口から言わせようとした。
「いえ・・・」
・・・本当に、これで良いのか。
てっきり、これから彼にあれこれ指導を受けるのだと思ったが。
しないのか、というのを私から尋ねるなんて癪だ。
そう言っていられる立場でもないのだが、無意味なプライドや羞恥が邪魔をした。
「そんなに物欲しそうな顔をされては、こちらも我慢できなくなります」
「してません・・・!」
視線を落とし彼の言葉の真意を考えていると、思ってもいないことを言われ、思わず取り乱して反論してしまった。
冷静さを欠いている、と一瞬で我に返れば、もう一度彼に背を向け直して深呼吸をした。
「・・・・・・」
本当に、こんなので良いのか。
彼はさっき“今日は”と言った。
それはつまり、明日からはまた別のことをする、という意味なのだろうけど。
そんなに悠長なことで良いのだろうか。
バーボンから接触されれば、私は何もする事はできないのに。
そう俯き、つい考え込んでいる時だった。
「・・・では」
「!」
座っているベッドの沈み方が変わったことと、彼の言葉に反応して振り向けば、何故かベッドの上で横たわる沖矢さんが視界に入って。
何をしているのか、と目を見開いて視線で問えば、彼は優しい笑みを私に向けながら、手を差し伸べた。