第4章 どっちつかずの涙の雨
「一度、貴女の体について聞いておいてよろしいでしょうか」
「・・・?」
段々と眠気さえ覚えてくるような感覚の中、今度は徐ろにそんな事を尋ねてきて。
「ただ一度、体を重ねた経験がおありだと思いますが・・・その時のことについてです」
「・・・・・・」
質問を聞いた時は本当にどういう意味かと思ったが。
そういう事か。
確かに、これから彼にこういう事をしてもらうには・・・必要な情報かもしれない。
「率直に伺いますが、そこに恐怖はありましたか?」
「・・・いいえ」
あの時のことを思い出しては、目を伏せて。
本当に馬鹿な事を頼んだとは思うが、後悔はしていない。
・・・赤井さんは、後悔しているかもしれないが。
「それは、赤井秀一だったから・・・ですか?」
「・・・多分、そうだと思います」
恐怖というものは無かった。
でも、不安はあった。
だから体が硬直する事はなかったが、震えることはあった。
・・・少しも、過去のトラウマを思い出さなかったと言えば、嘘になるから。
「では僕だと、恐怖が襲いますか?」
「・・・分かりません」
それは単純に試していないというのもあったが。
不思議と、彼は赤井さんと同じように・・・そういうものは感じられないのではないかという、根拠の無い自信のようなものがあったから。
「でも、バーボン相手には、触れられるだけでダメでした」
その理由の一つに、それがあった。
バーボンには触れられるだけで駄目だったにも関わらず、今はこうして彼に触れられても、何の問題もない。
・・・いや、問題はあるけど。
「そうですか」
納得しているのかどうかは知らないが、少なくとも理解はしただろう。
「・・・こんな私で、できると思いますか?」
その上での、確認だった。
本当に私が務まると思うのか。
私自身、覚悟は決めたけれど。
単純に彼が私を、どう評価しているのか・・・気にはなっていた。