第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・沖矢、さん?」
戸惑いしか、ない。
いや、ここまで戸惑いの方が多かったけれど。
その中でも今この戸惑いは、かなり大きいもので。
何をしているのかと、動揺しつつも顔は前を向いたまま、名前だけで尋ねてみた。
「こうも体が強ばっていては、感じるものも感じません。貴女にはまず、快楽というものを知り尽くしてもらわなければいけませんから」
・・・彼はどれ程手馴れているのだろう。
赤井さんから直接彼に依頼をする程だから、それなりだとは思うけれど。
スコッチと情報のやり取りをしていたということは、やはり組織では私と同じ情報屋という立ち位置だったのだろうか。
であれば、色々納得はできてしまうが。
「今度は・・・今までのようにはいきませんからね」
「・・・・・・」
・・・確かに。
今までのように、逃げ続けることはできないな。
組織には、ハニートラップを仕掛ける者としての立ち振る舞いを見せてはいたが。
実際はウェルシュとして体を重ねたことは1度もなく、別の方向からいつも情報をもぎ取っていた。
・・・でも、今度は。
バーボン相手に、今までの手口は・・・通用しない。
それは傍で仕事をしてきた私が、1番よく分かっている。
だからこその、この体の強ばりだった・・・けど。
「緊張が和らぎましたか?」
彼が肩を揉み、腕や手を優しく揉み始めた頃には、再びその強ばりが消えていて。
「・・・少しは」
彼の言葉通り、緊張すらも溶かされていた。
「何よりです」
・・・不思議だ。
本当に、不思議だ。
男性に触れられることすら、過去のことを思い出すから嫌なのに。
何故彼なら大丈夫なのか。
それどころか・・・安心感まで得られているような気さえする。
この男は本当に・・・何者なのだろう。