第4章 どっちつかずの涙の雨
「服装で変わるものですか」
あの時貰えなかった答えを、彼ならくれるだろうか。
そんな興味本位で尋ねてみれば。
「勿論ですよ。食欲と同じですからね。綺麗に盛り付けられた料理を食べる方が、より美味しく感じませんか?」
「・・・・・・」
妙に納得させられる答えを、彼は私に返した。
言われてみればそうかもしれない。
ただ、女性を食べ物に例えられるのはどこか嫌な気がしてしまうが。
「安心してください。すぐに取って食べようだなんて思ってはいませんから」
・・・取って食べられる練習はするのだろうけど。
そう背中で言葉を受け止めながら、僅かに目を伏せて。
その瞬間、背中についていた彼の体がゆっくりと離され、残っていた熱が徐々に冷めていくのを感じた。
「では、そのまま落ち着いた呼吸を繰り返してください」
もう、一々彼の言葉に意味を考えるのはやめよう。
今はただ、彼の言葉に従うことだけを考えていればいい。
言い聞かせるように脳内で何度も同じ考えを巡らせると、彼の指示通り、ゆっくりと息を吸って、ゆっくりと息を吐いた。
心臓の落ち着きを取り戻すのは特に困難と思ったことはない。
その為、すぐに呼吸は整えられたが。
「触れますよ」
彼のその言葉と。
「・・・っ」
数秒後に、宣言通り肩に触れた彼の手に。
動揺して呼吸が乱れてしまったことは、否めなかった。
・・・このまま、何をされるのか。
ただ伏せていただけだった目は、いつの間にか固く瞼が閉じられていて。
抜けていた力はいつの間にか、いらない所に込められていた。
「・・・・・・」
けれど、それからまた数秒後。
肩に置かれた彼の手は、自分とは予想外の動きを見せた。
そこから体を滑るように撫でられるのだと思っていたけれど。
彼の手は滑るどころか、そこから動くことはなく、優しく凝りを解すように、肩を揉み始めた。