第4章 どっちつかずの涙の雨
「体の柔らかさは問題ありませんね?」
「・・・はい?」
背を向けたまま、首だけを回し顔を少し後ろへと向けると、何の意味があってそんな事を問うのかと一言で尋ねた。
その顔を覗き込むように、彼も体を傾けながら私に微笑むと、前を向いて、と指差しで指示して。
「重要ですよ。感じやすいかどうかは体の柔らかさに掛かっていると言っても、過言ではありません」
渋々前を向き直すと、そういう意味があるのか、と今までは無縁だった知識を入れ込んだ。
「まあ、貴女の截拳道を見る限り、大丈夫だとは思いますが」
彼の言う通り、体の柔軟性については、問題無いと思う。
ただ正直、私が向かう先に快楽というものは必要としていない。
それがあるに越したことはない・・・というのが今の自分を宥める理由といったところだろうか。
「次に、服装ですが」
「!」
言いながら、彼は私の背中にピタリと体を付けて。
背後から手を回し、ゆっくりと太ももに指を滑らせた。
耳に掛る彼の吐息がくすぐったくも、恐怖を呼ぶようでもあって。
でもやはり、体が硬直するまででもないのは・・・何故なのか。
「こういう時は、なるべく短いスカートを身に付けてください。ただ例外もある上、今回はバーボンの趣味に合わせなくてはいけませんけどね」
大腿部を這うように進んだ指は、私が身につけるショートパンツの裾を掴んで。
そういえば、つい就寝時に近い格好で来てしまった。
服の用意など無かった為、この中から適当に、と彼が用意した中から選んだのだが。
寝込みを襲われても、夜中に急な呼び出しがあっても良いように、動きやすい格好で。
・・・そもそも、そんな事なら最初からそういう服を出せば良かったじゃないかと、心の中だけで不満を零した。
「まあ、その辺りのリサーチは貴女の方がやりやすいでしょうから、お任せします」
・・・任されても困るのだが。
バーボンの趣味なんて正直知りたくもない。
「下着にも気を付けてください。攻めるくらいで丁度良いです」
そういえば・・・赤井さんも似たような事を言っていた。
どうせそういう時になれば脱がせるものなのに、何故こだわるのかと聞いたが・・・その時になれば分かるとだけ、言われた気がする。