第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・・・・」
結局、そのままボーッとしている内に夜は更けていって。
気付けば何となく、沖矢さんに言われた通り、その日はここに泊まる流れとなっていた。
「・・・!」
ソファーに座り、考え事をしているようで何も考えられない時間を過ごしていると、突然目の前のテーブルに何かが置かれた。
ハッと意識を戻し目を向けると、テーブルの上にはカップに入ったコーヒーが置かれていて。
「変なものは入れてませんよ」
それを気配無く置いた彼の手には、もう1つのカップがあって。
それを持ったまま向かい側ではなく、数時間前と同じように私の隣に腰掛けると、カップに入ったコーヒーに口をつけた。
「あ、砂糖とミルクは入っていますがね」
「・・・・・・」
そういう彼のコーヒーには、どちらも入っていないようだが。
それが目の前のコーヒーを尚更、怪しくさせた。
・・・私がいつもシュガーやミルクを入れないことは、さすがに赤井さんから聞いていなかったようだ。
「見栄を張らなくても良いんじゃないですか」
「・・・?」
何に対しての見栄だ、と視線で尋ねれば、彼はもう一度コーヒーに口をつけ、そのカップをテーブルに置いた。
「彼の前ではいつも、ブラックを飲んでいたそうですね」
・・・何だ。
そんな事まで聞いているんじゃないか。
赤井さんといい、スコッチといい、この男は何か彼らの弱みでも握っているのではないかと思う程、要らない情報まで持っているな。
それならこの目の前のコーヒーは、嫌がらせという事だろうか。
そう感じため息を吐きかけた時。
「ブラック、苦手なんですよね?」
彼の次に出された真実に、呼吸が一瞬止まった。
そのせいで、ため息は出しそびれたまま消失してしまって。
「・・・・・・」
誰にも言ったことなんてない。
ブラックのコーヒーは、あの人の隣にいる為に・・・周りに不釣り合いだと言われない為に、飲んでいたものだったから。