第4章 どっちつかずの涙の雨
「仮に、そうだと言ったら・・・どうしますか?」
「・・・一度、沖矢さんを殴っておきたいと思います」
赤井さんが関わるのであれば、教えて欲しかった。
それは、双方に言えることだが。
腹いせや、八つ当たりと言われればそうだけど、それとはまた別に理由はある。
「隠していたから・・・ですか?」
どうやらそれは沖矢さんも、よく分かっているようだ。
しかし。
「それとも・・・」
自分でも気付けなかった、私の心の奥底の確信を突かれるとは。
「赤井秀一を殴ることができないから、ですか?」
思ってもいなかった。
「・・・・・・」
・・・いや。
どちらかと言うと、覆い隠していたと言うのが近いかもしれない。
「貴女が赤井秀一に、絶対的信頼を寄せていることは分かっています」
質問をしていたのは私の方なのに。
いつの間にか、沖矢さんからの質問の方が多くなっている。
彼は徐ろに立ち上がると私の目の前に立ち、腰を曲げ顔を近づけては、どこか挑発的な態度を見せて。
「そうですよね?」
最後に、私へ。
「FBI捜査官・・・如月ひなたさん」
トドメの確認をしてきた。
「・・・・・・」
彼が私の正体を知っていることは分かっていたが。
きちんと口にされるのは、初めてで。
以前少しだけ口にしかけた時は、ビュロウと言いかけたようだったが。
「・・・沖矢さんの質問に対して、私の答えは前者です」
私の座るソファーの背もたれ部分に彼の手が置かれているせいか、実際の彼との距離より近く感じる。
けれど妙な気が張っているせいか、冷静さはいつも以上にあり、体もいつでも動ける状態にあった。
「そうですか」
私の返答に、彼はフッと笑いを漏らすと、縮めていた距離を静かに離した。
「では、一発どうぞ」
そして両手を広げたかと思うと、無防備な様子で私に、殴れ、と自ら指示をしてきた。