第4章 どっちつかずの涙の雨
私の無言の問い掛けに、彼は不敵な笑みで返事をして。
・・・彼は本気だ。
その理由も分からないまま、彼は私を背後に隠すように誘導させると、徐ろにドアを開けた。
「ベルモットか。悪いが、彼女は僕が連れて・・・」
こちらの部屋が暗く、煙もあったせいか、銃を向けるバーボンは隙間から確認できたが、向こうからこちらの姿は捉えられていないようで。
その隙に、赤井さんは手に持っていたハンドグレネードの安全ピンを引き抜き、軽い手つきで貨物車との連結部分へとそれを放り投げた。
「手榴弾!?だ、誰だお前!」
本当に、投げてしまった。
それに驚いたのは勿論バーボンだけではない。
誰より・・・私が一番驚いていたと思う。
「・・・ッ・・・」
次の瞬間には、ハンドグレネードによる爆発が起きて。
それによる熱さと爆風に表情を歪ませていた数秒後には、少し離れた場所から先程よりも大きな爆発音が響いてきた。
「くそ・・・っ」
・・・恐らく、貨物車が爆発した。
あの爆弾の量からして、貨物車にシェリーが乗ったままなのだとしたら・・・彼女は、もう・・・。
「ひなた」
このやり方が正しかったのか。
答えが見つからないまま立ち尽くしていると、赤井さんは静かな声で私の名前を呼んだ。
「この窓から隣の部屋へと移動しろ。君ならそれくらい、できるだろう」
・・・まだ、何も聞いていないのに。
彼がここに居る理由も、ああした理由も。
何より一番聞きたいのは。
「早くしろ。バーボンに調べられては困る」
・・・残念ながら、今はそんな余裕がない。
彼に促されるまま、私は勢いを失わない列車の窓を伝い、隣の部屋へと移った。
そこで暫くやり過ごし、バーボンが去ったことを感じ取ると、元居た部屋へと何とか戻って。
「・・・・・・」
そこに沖矢さんの姿はない。
彼にも山程聞きたい事ができたのに。
部屋は、私が去った時のままで。
「・・・っ」
・・・さっきまでの出来事が、どうにも現実味が無い。
まるで夢でも見ていたのではないかと思う程、ふわふわとした記憶だ。
あの赤井さんも・・・誰かの変装ではないかと、思う程で。