第4章 どっちつかずの涙の雨
・・・とりあえず、考えろ。
まず、この火災は本物ではない。
それは何かが燃える臭いがしない時点で明らかだ。
そして8号車の後ろには、爆弾がある。
それを積んだのは恐らくバーボンかベルモット。
単純に考えれば、人払いをする為に彼らが火災騒ぎを起こしている、ということになるけれど。
・・・シェリーがわざわざそこに行くだろうか?
彼女のことについて少しは調べてきたけれど。
そういう人間なのかどうかまでは、分からない。
もし、彼女が自分さえ犠牲になれば良いという考えの持ち主だった場合・・・今頃8号車にいるだろう。
「・・・・・・」
確かめる必要があるだろうか。
でも、私が協力した内容は車内の点検だ。
これ以上介入すれば、沖矢さん達の邪魔をしかねない。
・・・彼からは、部屋を出るなと言われている。
でも目的は、彼女の救出だ。
もし、これらが予定外で、私が動くのを待っているとしたら。
「・・・・・・」
どうせ8号車に一般人はいない。
部屋を借りれば少しは身が隠せる。
だったら。
まずは行って、8号車の様子を見る。
沖矢さんに何か言われれば、車内点検だと言おう。
でも彼らの邪魔だけはしないように。
万が一に備えて、隠し持っていた拳銃を取り出しやすい位置へと付け直した。
念の為帽子とメガネを装着し直すと、少しだけドアを開けて外の様子を伺って。
辺りに漂う煙に眉を寄せながら、視界が不良であることをまず確認した。
「・・・けほっ・・・」
持っていた手袋をハンカチ代わりに、見回しながら8号車へと向かった。
乗客は前の車両へと避難が済んでいるようで。
こちらとしても都合は良いが。
「・・・・・・」
8号車に入ったが、気配は感じられない。
・・・けど、殺気に近いものを感じる。
もうバーボンかベルモットが近くにいると考えた方がいい。
警戒は怠らないまま、拳銃が収められているレッグホルスターへと手を伸ばしかけた瞬間。
「!?」
背後の気配には気が付いたのに。
体の反応がコンマ数秒遅れた。
それが命取りになると、あの人から何度も教わっていたのに。