第4章 どっちつかずの涙の雨
「貴女はここに居てください。バーボンに見つかった事ですし」
「ま、待ってくださ・・・!」
交換条件だった状況説明が、まだされていない。
その上、私が反論しにくい事実をぶら下げてきて。
「いい子で、待てますね?」
「・・・っ!」
何故この男は逆撫でしないと物が言えないのか。
一瞬で沸いた怒りを必死で押し殺しながら言葉を飲み込むと、視線だけで返事をした。
「では、また後で」
結局、説明も何もないまま。
沖矢さんは、その言葉といつもの笑みだけを残し、部屋を後にしてしまった。
「・・・・・・」
一体、私は何をしに来たのだろう。
何の為に、ここへ連れて来られたのだろう。
爆弾の確認はしたが、それは沖矢さんや、あの名探偵だってそれくらいの事はできたはずだ。
マジシャンとバーボンに見つかり、それを確認しただけ。
おまけに、声は掛けられなかったものの、ベルモットにだってバレているかもしれない。
自業自得の部分も勿論あるが。
・・・やはり、彼を信用するには早過ぎたか。
自分の早計さに遅過ぎる反省をしつつ、倒れるようにベンチシートへ体を預けた。
ー
あれから暫く経ったが、沖矢さんから連絡がある所か、車内はやけに静まり返っていた。
嵐の前の静けさとでも言うのだろうか。
最寄り駅に停車することも無くなったようだ。
何かが静かに動いていることは、ほぼ間違いがないのに。
それを確かめに行くこともできない。
それが私にとって、どれだけ意地らしく悔しいことなのか。
沖矢さんは知る由もないだろうが。
「・・・!」
そんな事を窓の外の景色を呑気に眺めながら考えていると、車内が再び騒がしくなったのを感じとった。
ドア付近に立ち、外の様子を伺っていると、ふと微かな臭いが鼻をくすぐった。
「・・・煙?」
その臭いは、そんな風に感じた。
けれど火薬の臭いはしない。
本当に、ただの煙・・・というべきだろうか。
『緊急連絡です!只今、当列車の8号車で火災が発生しました!7号車と6号車のお客様は、念の為、前の車両に・・・ーー』
その臭いに神経を向けている最中、車内アナウンスで、そう案内が流れた。
「火災・・・」
・・・これはどちらの作戦なのか。
それとも、想定外のことなのか。
確認したいのに、できる人物は残念ながら今ここには居なくて。