第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・成程」
電話を切った彼は、納得の言葉と共に背を向けていた体勢から私の方へと向き直って。
そうしたかと思うと、何故か小さく部屋のドアを開いてみせた、その時。
「ホー・・・、それなら毛利先生にお任せした方が良さそうかな?」
「!?」
ドアの隙間から僅かに聞こえて来たのは、間違いなくバーボンの声だった。
それを確認すると、沖矢さんは静かにドアを閉め、私に不敵な笑みを向けて。
「どうやら、天は我々に味方しているようですよ」
勝ち誇った様な声色で、そう言ってみせた。
「・・・何が起きているんですか」
先程の車内アナウンスといい、ざわつきといい、廊下のバーボンもそうだが。
明らかに異常事態だと言えるのに。
「それを説明する前に、貴女がこの車内で出会った人物、全てを教えて頂きましょうか」
彼は呑気にも思える要望を、私に出してきた。
本当は、今すぐ説明を求めたい所ではあるが、あくまでも今は彼の協力者であって仲間ではない。
似て非なる存在だから。
「マジシャンと、バーボンと・・・」
会ってしまった人物の名前を素直に上げていった。
コナンくんはドア越しに声を聞いたが、出会ってはいない。
その為、彼の名前は上げないとして・・・と、10数分前の記憶を辿っていた時。
「!」
とある人物の顔が、フラッシュバックするように思い出された。
絶対にすれ違うことがないと思っていた、人物の。
「ライ・・・顔に火傷の痕がある、ライに似た男とすれ違いました」
恐らく、あれはベルモットだろうけど。
出会ったと言えるのかは怪しいが、伝えておいた方が良いだろうと、名前をあげたのに。
「よく分かりました」
彼は困惑する訳でも納得する訳でもなく、ただ淡々と理解したことだけを私に伝えて。
「お、沖矢さん・・・!?」
外の様子を伺ったかと思うと、何故かドアを開きかけて部屋を後にしようとした。