第4章 どっちつかずの涙の雨
有益な情報があった訳でも、彼に何かをされた訳でもない。
ただ少し、彼に触れられただけだ。
私はそれに、嫌悪に近いものしか感じてはいないのに。
「そんな顔で言われても、説得力がありませんよ」
安室さんも、沖矢さんも。
それに対し、何故そう怒りを露わにするのか理解ができない。
「どこを」
「っ・・・」
彼の指が、私の頬に触れる理由も。
「どんな風に」
「沖矢、さ・・・っ」
その手が頬を包み、指が耳に触れた瞬間、体がピクリと震えた理由も。
全部、全部。
「触れられたのですか?」
理解できない。
・・・いや、したくない。
「いい加減に・・・ッ」
動きが鈍った体を何とか動かし、彼の手を払い退けようとした瞬間だった。
「!」
彼の胸ポケットから、バイブ音が響いてきて。
鳴り響き続けるということは、電話ということだろう。
「・・・残念、邪魔が入りましたね」
「・・・・・・」
こちらとしては、怒りをぶつけ損ねた、と睨んで返事をすれば、いつもの苛立ちを覚えさせる笑みを向けられた。
電話に出て静かに会話をする彼の背中を見つめながら、どうにか冷静さを取り戻していって。
・・・この男には、どうにも神経を逆撫でされる。
ただ、どこか気が緩むという感覚にも似ていて。
だからなのかは分からないが・・・沖矢さんから触れられても、やはり体が動く。
他の男では、まともに動くことはできないのに。
・・・この違いは、一体何を意味するのだろう。
「?」
突然、外が騒がしくなった。
例の推理クイズとやらが始まったのだろうか。
にしては、賑わっていると言うよりは、ザワついていると言った雰囲気だが。
『お客様にご連絡致します。先程、車内で事故が発生しました為、当列車は予定を変更し、最寄り駅で停車する事を検討中でございます』
・・・事故。
まさか、ベルモット達が何か仕掛けたのだろうか。
その混乱に乗じて、シェリーを始末するとでも・・・?