第4章 どっちつかずの涙の雨
「いつもと雰囲気が違ったので、驚いてしまいました」
・・・本当に、何の為の変装だったのだろう。
そう思いながらも、今は話を変えることだけを考えて。
「安室さんはお1人で・・・?」
これでベルモットの存在をチラつかされれば、もう覚悟が決められたのに。
「ええ、たまたまチケットが取れたので」
彼は何故か1人だと答えた。
ただ、ここでバーボンに会えたということは・・・さっきのライが、ベルモットの可能性が高いと言えた。
それはそれで収穫なのだろうが。
問題なのは、今、この状況だ。
「そう言うひなたさんも・・・お1人ですか?」
・・・どうしよう、何と答えよう。
沖矢さんといることは黙っていた方が良いだろう。
色んな意味で。
まあ、こういった時は大変便利な言葉がある。
「秘密です」
そう答えれば、多少のことは切り抜けられる。
それがバーボン相手に通ずるかは、これから次第だが。
「そう言われると、明かしたくなるのが本能ではありますが・・・女性の秘密は、着飾り美しくするものですからね」
そう言って笑う彼は、普段の安室透とどこか違った。
やはり・・・今はバーボンで居るということなのだろう。
そんな彼が、どう動くのか。
僅かに身構えた・・・けれど。
「では、僕はこれで」
「え・・・あ、はい」
軽い会釈をしたかと思うと、呆気なく彼は私の傍を通って行ってしまって。
何か・・・突っかかられると思ったが。
杞憂だったのだろうか。
それとも、彼なりの作戦なのか。
「・・・・・・」
いや、今は何だって良い。
とりあえず部屋に戻ろう。
見つかってしまった以上、私は下手に動けない。
最早、用済みだ。
沖矢さんや名探偵、さっきの青年の邪魔にならないようにしておかなければ。
そんな事を思いながら、沖矢さんが待っているであろう部屋へと戻った。
ー
「何か収穫がありましたか」
部屋に戻るなり、沖矢さんは笑顔でそう尋ねてきた。
予定以上に時間が掛かった事には何も言わないのだなと思いつつ、窮屈に感じていた帽子とメガネを剥ぎ取り、座席に置いた。