第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・!」
そんな会話をする中、前方車両の方から足音が近付いてくるのを感じて。
体は目の前の青年に向けたまま、視線だけを僅かに後ろへやった。
「どうやら、お喋りはここまでのようですね」
彼もその足音には気が付いたようで。
再び視線を戻した時には、ボウ・アンド・スクレープの形で頭を下げていた。
どうやら彼は、誰かに見られてはならない存在らしい。
それを察すると同時に、彼はどこからともなく取り出した丸い玉を床へと投げ付けると、そこから強い光が発せられた。
「!」
・・・スタングレネードの簡易版か。
威力としてはかなり低いが、一瞬視界を奪うには十分な光で。
彼の思惑通り、目を瞑った一瞬で彼は姿を消し、それに気付いた時には足音がすぐそこまで辿り着いていた。
「・・・・・・」
私も早く立ち去らなくては。
沖矢さんに報告もしなくてはならない。
さっきの青年は名探偵に、私は沖矢さんに、それぞれ使われる者同士だったのだなとため息を吐きながら、車体を跨ぐドアを開けた時だった。
「・・・!」
私はこの車両から抜け出せない呪いにでも掛かったのだろうか。
近付いて来ていた足音の人物は、正に目の前に立っていて。
目を合わせず先を急げば良かったものの。
見覚えのある服装に、思わず視線を上げてしまった。
「・・・ひなたさん?」
こんな下手な変装、彼相手ではすぐにバレる。
それを証明するように、目の前にいる彼・・・バーボンは、私の名前を呼んだ。
「あ、安室さん・・・偶然ですね」
咄嗟に作り上げた笑顔で返事をしたが、内心は焦りしか無かった。
会ってはいけない人物に、こうも簡単に出会ってしまったのだから。
「・・・偶然、ですね」
私の言葉に、彼は引っ掛かるような物言いで言葉を繰り返すと、浮かべていた笑顔を怪しいものにさせた。
・・・極めて良くない状況だ。
シェリーではなく、私の方が先にどうにかされてもおかしくはなかった。