第4章 どっちつかずの涙の雨
「あの・・・本当に大丈夫ですか?」
髪を纏め、帽子を被り、眼鏡を付けただけ。
正直必要かどうかも怪しい変装だが、これを見た沖矢さんは満足そうで。
「僕だけの保証では不安ですか?」
私の質問に何故か質問で返しながら、彼は私の歪んでいたであろう襟元を正した。
「不安だから言っているんです」
寧ろ、不安しかない。
そう心で呟きながら、彼から溜息を吐きながら距離を取り、睨むように視線を送った。
それを見れば尚楽しそうに笑みを浮かべる彼に、情報は確かではないかもしれないと疑い始めて。
「心配せずとも、作戦はしっかりしていますから。貴女は予定通り、車内に危険物が無いかを確認してくださいね」
まるで、子どもにでも頼むような物言いだ。
ため息しか出てこなくなった体を玄関へと向けながら、私達は彼の車でミステリートレインが発車する駅へと向かった。
ー
ミステリートレインと呼ばれるベルツリー急行。
それを目の前に、私は少し目を見開いていた。
SLの様な見た目だが、中身は最新鋭のディーゼル機関車だと聞かされた。
年に一度の運行なんて勿体ないと思うが、行先を不確かなものに調整したり、プレミア感を出すには、何度も運行するのは難しいのだろう。
そんな事を考えては、彼の腕に手を回し恋人の真似事をしながら乗車した。
「良いですね、とても」
「いいえ、ちっとも」
互いに笑顔でする会話ではないものを交わしながら、僅かに彼の横顔へと目を向けた。
・・・彼は帽子を被るどころか、変装すらしていない。
それ程、ベルモットには接点が無かったという事だろうか。
スコッチと接点があったのであれば、バーボンがこの男を一方的に知っていても、やはりおかしくない。
そう思えば、バーボン・・・安室透が、この男を毛嫌いする理由も、説明がつくのだけれど。