第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・っ」
・・・何故、なのか。
何故こんなにも私は、傷ついているのだろう。
「出直します。また、ポアロで」
「・・・・・・」
そう言うと、彼はあっさりと玄関へ向かって。
それを確認する為なのか、止める為なのか。
自分でも行動理由は分からなかったが、体を起こし追いかける様に足を進め、部屋の出入口から覗くように彼を目で追った。
「お返事、ずっと待ってますからね」
靴を履き、玄関のドアを少しだけ開きながら、彼は笑顔でそう言って部屋を後にした。
「・・・・・・」
正に・・・嵐のようだった。
結局彼は、何をしに来たのだろう。
盗聴器でも仕掛けに来ただろうか。
そう思い、発見機で探しもしてみたけれど、特に反応はなくて。
それを確認した瞬間、体の力が一気に抜けてしまい、部屋の真ん中にペタリと座り込んだ。
「・・・ッ・・・」
彼に触れられた耳を塞ぎながら、自分の体が震えていることに気付いた。
・・・あの時の彼の目は、ウェルシュとバーボンで仕事をしていた時のものに、よく似ていた。
けれど・・・その後は。
まるで別人のようだった。
考えたって、理由も根拠も見つからないが。
「はぁ・・・・・・」
これからどんな顔で会えばいいのか。
正直、ポアロの潜入の意味は本当にあるのか。
もう色々と分からなくなっているが。
あの人と連絡が取れるまでは・・・もしくは、彼らとの定期連絡の日が来るまでは、続けるしかない。
沖矢さんから渡されたミステリートレインのパスリングをポケットから取り出しては、ため息を吐いて。
今度は敵地に乗り込むという事実を、噛み締めた。
ーーー
2日後。
私は協力者として、工藤氏の邸宅へ出向いていた。
「お似合いですよ」
「・・・どうも」
必要かどうかは分からないが、念の為と言われ簡単な変装をさせられて。
今日も相変わらずの様子で言われた沖矢さんからの言葉に適当に返事をした。