第4章 どっちつかずの涙の雨
「ひなたさんからの、返事を」
「ッ・・・!」
彼はそう言うと同時に、私の耳へと指を這わせた。
ただ、触れられただけなのに。
それだけ、なのに。
「安室、さ・・・っ」
何故、こうも。
体が疼くのだろう。
「ん・・・っ・・・」
・・・情けない体だ。
こんな時に、動けもしない。
「・・・ひなたさん、あの男とはどういうご関係ですか?」
口を開かなくても、こういう時に反撃ができなければ意味が無い。
「別に・・・っ、何も・・・」
耐えるしかできない自分が、情けなくて。
あの人にも、愛想を尽かされてしまったのではないかと、思ってしまう始末で。
「・・・ひなたさん」
また、そんな声をする。
「・・・っ」
目眩がしてくるようだったが、ただでさえ体が動かない私が、これ以上下手な行動はできない。
「あ、安室さんには、関係ないです・・・っ」
とにかく、突き放すように。
物理的にも心理的にも、距離を取るように。
彼を微弱な力で押し上げながら、そう言い放つと。
「・・・そうですね」
ほんの少しの間が空いたかと思うと、彼はあっさりと私から体を離した。
あまりにも早い幕引きに呆気に取られ、体は固まったまま、目を丸くして彼を見つめた。
「僕達は付き合っているわけでもありませんし、こうしてお茶を飲む程度の関係です」
その胡散臭い笑顔を貼り付け、彼は両手を顔の横で広げながら、そんなことを言ってみせた。
「でも、あの男に渡したくないのも事実です」
そして、そう言葉を付け足して。
「・・・・・・」
今、一瞬で・・・見えない壁を作り上げられたようだ。
こちらの心の壁は、力ずくで壊してくるくせに。
彼が作った壁は・・・。
「・・・体の相性が良ければ、少しは可能性があるかと思ったんですが」
酷く高く、大きく、分厚くて。
「不誠実でしたね、申し訳ありません」
精神的に、おかしくさせられる。
それが彼の作戦だと、分かっているはずなのに。