第4章 どっちつかずの涙の雨
「!」
・・・そう。
男はすぐにこうして。
「あむ、ろさん・・・っ」
女が目の前にいれば手を出す。
今まで、組織を通して会ってきた男は皆そうだった。
目の前の彼にとっては、恐らく私が情報搾取の対象だからだろうけど。
この状況を楽しめる人間だったら良かったのに。
そんな事を考えながら、拳を固くした。
太ももからゆっくりと這い上がってくる彼の手と同時に、彼の口元が鎖骨へと近付くと、その吐息で再び体は小さく震えるように反応した。
「・・・この匂い、酷く苛立ちますね」
けれど、触れると思っていた彼の唇は触れる事がないまま、ポツリと呟くように言葉を零すと、私を抱き抱えるように膝裏と首裏に腕をまわした。
「・・・っ!?」
フワッと突然感じた浮遊感に思わず彼の服を掴むと、何故か奥の部屋へと移動して。
そこに置いてある小さなベッドに落とされるように私を降ろすと、あの時と同じように、彼は四つん這いになって私に覆い被さった。
「ッ・・・!」
自分のテリトリーに彼がいるからなのか。
単純にここがベッドの上だからなのか。
警戒心と嫌悪感に近い感情は、この上なくジワジワと私を蝕んだ。
「・・・ここは、ひなたさんの匂いがしますね」
そう言って不敵に笑う彼に、ゾクッと確実な恐怖が襲った。
「つい、手が出てしまいそうです」
バーボンの本気を見ているようで。
組織の手がすぐそこまで伸びているのだと、言われているようで。
「安室さんっ、待ってください・・・っ」
「・・・・・・」
やはり彼の目的は私だ。
そう判断せざるを得ない。
そうでなければ、彼が私に手を出す理由が分からない。
・・・でもそれ以上に分からないのは、他に何かを仕掛けてこないことだ。
殺すなら早く殺せば良い。
連れて行くなら、とっくに連れて行かれてる。
・・・私は関係なく、私が持っている情報が必要なのだろうか。
その可能性は大いにある。
「僕はもう、ずっと待っていますよ」
僅かな時間稼ぎに無意識で出てきた言葉に、彼はそう返事をした。
「え・・・」
その時の表情が何とも言えないものだったからか。
拍子抜けというのか、単純な驚きなのか。
思わずこちらも間の抜けた声を短く漏らしてしまった。