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【安室夢】零番目の人【名探偵コナン】

第4章 どっちつかずの涙の雨




・・・こういう時の彼はいつも、こうなのだろうか。
何かのスイッチが、突然入ってしまうような。

まるで別人になっているようだった。

「待っ・・・て、くださ・・・」
「何を、待てばいいですか?」

・・・ああ、どうして私はこういう時、何もできないのだろう。
あの時からずっと、逃げてきた代償だろうか。

「貴女に触れる、心の準備をする時間ですか?」
「・・・っ」

それでも逆を言えば、ずっと逃げてこられた。
どんな相手でも、情報を搾取することは疎かにせず、逃げてきた。

それが良いことだったのかは、もう分からないが。

「ど、どうしたんですか・・・安室さん、変ですよ」
「ええ、変です」

冷たい壁の感覚を覚えつつ、目を離さないまま言った私の言葉に、彼はあっさりと肯定して。

「貴女の事になると、おかしくなってしまうんです」

冷静にさせるどころか、彼は何かを見失ったように、逃げられなくなった私の頬に手を添えて。

「手に入れたいのに、入らなくて」

その手の指が耳に触れると、私の体は意志とは反し大きく反応を示して。

「掴もうとすれば、逃げてしまう」

彼の言葉が聞こえているようで聞こえてこない。

冷や汗が流れる感覚と、呼吸が苦しくなる感覚だけが敏感に伝わってくる。

「ひなたさん」

・・・この男の声は麻薬だ。
一度落ちると抜け出せなくなるような。

そんな声をしている。

「僕は、貴女のことが好きなんですよ」

耳元で、いつものようでいつもとは違う告白を、囁くようにされて。

「その事・・・分かっていますか?」

鋭い視線で私を捕らえながら、ひっそりと答えを求めた。

「分かってます・・・よ・・・」

警戒心は今でも解いたつもりはない。

「では、そんな男を家にあげる意味も・・・分かっていますよね?」

それは彼が安室透だから、という理由だけではない。

私は、彼を1人の男として、警戒している。



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