第4章 どっちつかずの涙の雨
「誘われていましたもんね」
・・・どこを、見ているのだろう。
そう言いたくなる程、彼の目は私を見ているようでそうでは無かった。
「何を話されていたのですか?」
心すらここに無いようで。
ただ淡々と、質問をするだけの人形のように見える。
「何を・・・していたのですか?」
段々と光を失うその目は、仕事をしている時のバーボンとよく似ていた。
この目でよく相手を見つめていたのだな、と思うと、その時の相手が気の毒に思える程。
何か冷たいものが体の中を駆け巡る、気持ち悪い感覚を覚えた。
「安室さ・・・」
・・・疑われているのだろうか。
それとも個人的な何かなのか。
いや、彼がこんな事で個人的な感情で怒ったりするはずがない。
ライ以外に腹を立てている姿を、あまり見たことがないから。
「どこに触れられました?」
「・・・ッ!」
髪を持っていたはずの彼の手が突然、パッと開いたかと思うと、その指は首筋をゆっくりと這うように上から下へと降りていって。
ゾクッという悪寒に近いそれを体に走らせると、一気に体は固まってしまった。
「・・・っ・・・」
・・・まただ。
沖矢さんは少しマシなのに、この男には体が動かなくなる。
相手がそういう人間だと、分かっているからだろうか。
こうやって彼は、いくつもの情報を搾り取ってきたのだ、と。
「・・・ッ」
その危険性を体の方が早く察知し、イスから勢いよく立ち上がると、少し距離を取って彼の手から逃れた。
「安室さん・・・落ち着いてください」
聞いてくる割に、答えは求めない。
答えは最初から分かっているとでも言いたいのか、それとも吐かせる自信があるからなのか。
「僕は至って落ち着いていますよ」
そう言いながら、彼も同じように立ち上がり、私を追い込むように一歩ずつゆっくりと私に近付いてきた。
「・・・安室さん」
何度か彼の名前を呼んで静止をかけてみるが、動きは止まらず、あの日と同じように部屋の角の方へと追いやられてしまった。