第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・いかがですか?」
「美味しいです!これならすぐにお店に出せますね」
彼から出されたのは、綺麗に飾り付けられたケーキだった。
相変わらず、料理にはやけに前向きに取り組んでいることを不思議に思いつつも、その美味しさに肝を抜かれた。
・・・この男も組織にいる理由は知らないが、さっさと辞めて店でも開いた方が良いのではないかと思う程で。
そんな平和ボケしそうな時間も束の間。
「・・・そういえば、ひなたさん」
最後の一口を運んだ直後、彼は持っていたコーヒーカップを机に置くと同時に私の名前を呼んで。
瞬時に目を向ければ、彼の表情を見て体が強ばった。
「今までどちらに?」
口角は上がっているのに、目は笑っていない。
それはこれから、彼なりの尋問が始まるという合図のようだった。
「・・・どうしてですか?」
フォークを置く間、まるで時空が歪んだようにゆっくり時が進むような気がした。
「・・・あの男の匂いが、したので」
息が詰まるような感覚。
こちらは別に何も悪いことなんてしていないのに。
直接名前を口にしない辺り、やはり彼らの仲は悪いのだと再認識して。
「少し、沖矢さんと話をしてました」
「2人きりですか?」
私の答えを聞くなり、すかさず次の質問が飛んでくる。
自分の部屋なのに、相手のテリトリーに飛び込んだような居心地の悪さを感じた。
「・・・ええ、まあ」
彼の敵対心がどういうものか知らないが、それは異常にも感じた。
私もあの人は苦手だが、彼程嫌悪を露わにする程ではない。
それは私が協力者だからかもしれないが・・・そうなればバーボンは本能的に、彼は敵だと認識しているのかもしれない。
「・・・そうですか」
「!」
納得、とは程遠い声色。
完全なる空返事で答えながら、彼は私の方へと徐ろに手を伸ばしてきて。
「・・・っ」
何をされるのかと身構えた瞬間、彼の手は私の顔周りの髪を掬うように持ち上げ、そっと触れてみせた。