第4章 どっちつかずの涙の雨
「・・・片付けるので、少しだけ待っていて頂いても良いですか?」
「ええ、勿論」
互いの部屋の前まで帰ってくると、鍵を取り出しながら彼にそう声を掛けた。
相変わらず笑顔を崩さない彼を横目に解錠すると、軽く頭を下げて部屋に入って鍵をかけた。
本当は片付けるものなんてない。
「・・・・・・」
見られて困るものは常に隠している上に、生活に必要なものは最低限にしか置いていないから。
念の為、と部屋の中を見回し、2分後に玄関のドアを再び開いて。
「お待たせしました、どうぞ」
「お邪魔します」
玄関前で待っていた彼を、笑顔で迎えた。
同じように笑顔で返した彼は部屋に入るなり、やはりキョロキョロと隅々を見ているようだった。
・・・やはり、カメラや盗聴器は仕掛けなくて正解だった。
女性の一人暮らしだからと、適当に理由をつければそれとないのかもしれないが。
「・・・ひなたさん、引っ越して来られたのは最近ですか?」
「いえ・・・数ヶ月は経ちますけど」
紅茶を入れる、なんて彼は言っていたけど。
この部屋にはそれを入れるような可愛い食器なんてないな、と思い出しながらコーヒーカップを取り出して。
「以前も思いましたが、物が少ないですね」
そのコーヒーカップにも視線を向けながら話す言葉1つ1つが、全て私に対する疑いや探りの言葉に聞こえる。
「安室さんもじゃないですか?」
「僕は引っ越して来たばかりですから」
それとない会話だが、きっと彼も何か目的があってここに来たのだろう。
こちらが探りを入れるのは勿論だけど・・・ボロは出さないようにしなければ。
足元をすくわれては意味が無い。
その後、彼は持ってきていた紅茶のセットを、私のコーヒーカップに注いで。
ティーカップが無いことを謝れば、専用のもので飲まなければいけない決まりはない、と笑って答えて。
こういう所が、女性を惹き付けるコツなのだろうな、と上手く立ち回れる彼に劣等感のようなものを抱いた。