第4章 どっちつかずの涙の雨
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「・・・・・・」
あの後、彼はあっさりと私を帰した。
それに不服を感じる訳ではないが、何故か晴れない気分のまま、帰路に着いて。
・・・何だか、無意味に疲れた。
せめてあの人に相談できれば。
少しは気が楽になるのに。
急に連絡が取れなくなったのは何か理由があるのだろうけど。
その理由の断片も知らされないままでいるのは、やはり流石に心配の文字が過ぎる。
私に何かできる訳でもないが。
「ひなたさん」
「!!」
そんな事を考えながら足取り重く帰る最中、突然目の前に顔が現れたかと思うと、名前を同時に呼ばれて。
「あむ、ろ・・・さん」
ニコニコと嘘か本当か分からない笑顔を向ける彼だと気付くと、速くしかけていた心拍の落ち着きを取り戻した。
彼は人を驚かせる趣味でもあるのだろうか。
そして、ほんの小一時間前に分かれたばかりなのに、なんだか久しぶりに会うような感覚を覚えた。
「丁度お部屋に伺おうとしていたんですよ」
「・・・どうしてですか?」
今日は一緒に仕事上がりはずだったが。
・・・まさか、つけられていた?
それともここでずっと待っていたのだろうか、と自意識過剰のような疑惑を抱き始めていると。
「これ、ポアロで出す予定の試作品なんですけど、味見をしてほしくて」
「・・・・・・」
彼は持っていた紙袋を掲げ、笑顔のままそう言ってきた。
本当にこの男、あのバーボンなのだろうか。
ポアロはきっと何かの潜入の為なのだろうけど。
それにしては、やけに楽しんでいるようにも見えて。
「・・・ひなたさん?」
「あ・・・いえ。何でもないです」
彼の目的が分からない。
接していく度、分からなくなっていく。
・・・安室透は本当に、バーボンなのか、も。
「どうですか?お部屋に、伺っても?」
「・・・ええ、良いですよ」
彼の部屋に行くよりは、余程気は楽かもしれない。
前回は玄関まで勝手に入られたが。
「では、とびきり美味しい紅茶を入れますね」
・・・少しでも彼の目的が探れるのであれば、こちらも多少のリスクは負うべきだ。