第7章 夏休みは任務です②~大人の階段登る編~
「傑も花子も来ねぇな。」
「まぁ花子は寝坊としても、夏油が遅刻なんて珍しいな。」
「脳筋が任務で居なくて良かったな。」
「たしかにー。」
午前8時。
今日の訓練のメニューは主に体術。走ったり投げ合ったり竹刀を振り回したりをする主に花子を鍛えるための夏休み特別メニューなのだが、一向にその主役が来ないのだ。
蝉がミーンと鳴き続け、日陰にいてもじんわりと汗が背中にへばりつく。硝子は面倒くさそうに今日も変わらずタバコを咥えていた。
「花子、もしかして夏油に食われてたりして?」
「まさか・・・・・え、それで遅刻?」
「かもなぁ〜。」
そうニヤりと笑う硝子の顔を、最近よく見ている気がする。まぁアイツらは付き合ってる訳だし、ヤってたって別に不思議なことじゃないのに、ちょっとだけ想像して心がチクりと痛むのは何故だろうか。
そんなことを考えているときだった。
遠くで傑の呪霊を感知し、その数十秒後には上空で鳥の呪霊に乗った傑が現れた。
「すまない、2人とも。待たせたね。」
「遅せぇぞ、傑っ!」
「高くつくぞ。」
「あれ?花子は一緒じゃねぇの?」
オレの質問に傑は胡散臭い笑顔を貼り付けて、まだ私の部屋で寝てるよ、なんて笑う。
「は?アイツまだ寝てんの?しかもオマエの部屋で?」
「なんだか少し体調が悪いみたい。1回は起きたんだけどね。」
「私の反転術式使う?」
「いや、それには及ばないよ。」
「んだよー。アイツ投げ飛ばす気満々で来たのに。」
「変わりに私が相手するよ、悟。」
「え?傑、オレに大人しく投げられてくれるの?」
「んな訳ないだろ、全力でやるさ。」
「じゃあ、怪我したら呼んでくれ。」
そう手をヒラヒラさせながら、校舎へと歩き出す硝子。
「「いや、オマエも走るんだよ、硝子。」」
「パス!」
トランプじゃねぇんだから、と思わずツッコミそうになったが、傑と目配せをして硝子の右腕をオレが左腕を傑が掴み、強引にトラックへと運ぶ。
離せ、クズ共、人でなし、暴力反対、などと一頻り文句をつらつらと言い放った硝子は観念したのか、トラックに着くとオレたちと一緒に走り出した。(いや、あれは走っていない。歩きだ。)