第7章 夏休みは任務です②~大人の階段登る編~
『・・・っ、行かなくちゃ・・・っ、』
「・・・っ?」
『っ・・・はぁっ・・・っ、んっ、行かな・・・っくちゃっ・・っ、』
「花子っ!・・・花子っ!!」
朝の4時。
隣で眠る花子が何か寝言を言い、その声で目覚めると彼女の息はどんどんと浅くなり、苦しそうに眉間に皺を寄せながらうなされていた。
何度か続けて花子の名を呼び、鎖骨あたりを少しだけ強めに叩く。するとびっくりしたような顔でガバッと身体を起こした花子はあたりを見渡す。
「花子・・・?」
『・・・すぐ・・るっ・・・っあ、夢か・・・、』
「随分うなされていたけど大丈夫かい?」
『あぁー・・・うん。・・・えっと、ご、五条に追いかけまわされる夢だった。』
「それは、とんだ災難だったな。」
なんて、そんな付け焼き刃なウソに騙されるわけなどはないが、ここは一旦花子の話に乗っかる。もちろん本当はどんな夢を見たのか知りたい気持ちは山ほどあるが、そこは悟られないように。
『・・・あれ?待って。』
「なんだい?」
『・・・私、なんでここで寝てるの!?』
「花子はさ、どこまで覚えてる?」
『どこまでって・・・、』
染めていないのに少し茶色っぽい真っ直ぐでサラサラの花子の髪を自分の人差し指にくるりと巻き付けて、優しく口付ける。たったそれだけの行為で、彼女は耳まで真っ赤に染め上げる。
一生懸命に昨日のことを思い出そうとして慌てふためくその様は、まさに百面相という言葉がピッタリ合う。そしてその様がとても可愛くて愛おしいもんだから、ついつい意地悪したくなってしまうのは仕方ないだろう。
「すまない、花子。」
『へぇ?』
「ナニもしてないさ・・・まだね。」
『まだって・・・ちょ、ちょっ!すっ、すぐるっ!』
花子をそのまま元の位置に戻すように、ベッドに優しく押し倒す。幾ら鍛えてきたからと言っても、所詮オンナの子。細い身体の上に馬乗りになって、花子の両腕を片手で頭上に一纏めすれば動きを制するのは簡単だ。
『・・・傑っ、』
なんて上目遣いで名前を呼ぶ彼女に欲情しない方法があったら、ぜひとも知りたいものだ。