第7章 夏休みは任務です②~大人の階段登る編~
「弱者生存?とか言ってるヤツがねぇ。」
「それは変わらないさ。」
「じゃあさ、傑はどうすんだよ?」
花子と非術師が呪霊に襲われてて、“どちらかしか助けられない”としたら、なんて全く意地悪で無意味な質問をしてくる悟。そんなの決まっているじゃないか、と私は即答した。
「非術師だね。」
「へぇ〜。白状だな、オマエ。」
「無論、どちらも助けるがね。」
そして、そんな選択肢に迫られる状況を作るようなヘマは絶対にしないし、もちろん花子自身にだってもっと強くなってもらうつもりだ。だから決して白状な訳じゃない。(と思っているが、果たしてこれは白状なのだろうか。)
「オレにはできねぇんだよ。」
「・・・?」
先程まで息巻いてたオトコはまるで別人のように、小さな声と寂しそうなその横顔に苛立っていたはずの感情が徐々に萎んでいく。
「仮に好きな人ができたとして、その状況下に置かれたらオレはきっと非術師を見捨てて好きな人を助けちまう。」
「・・・。」
「オマエの言う通り、恋なんかしてたらオレは術師じゃなくてただの高校生になってしまいそうで、それが・・・怖いんだ。」
「悟・・・、」
初めてだった。
出会って4ヶ月ちょっと。悟がこんなにも弱気なことを言うのは見たことがなかった。
術師だろうとただの高校生だろうと、人にはそれぞれ考え方や胸に秘めた想いのひとつふたつはあるだろう。それを強要するつもりなんて更々ないが、否定することだけは絶対にしてはいけないと、改めて思った。
そして漸くしょうもないことで言い合ってしまったことにほんの少しだけ反省もした。でもやっぱり気にもなってしまう。本当は悟も花子が好きなんじゃないかと。
悟自身がそれに気が付いているのかいないのかも分からないので、敢えて私は何も聞かなかった。
「もっと強くなるしかないな。非術師も大切な人も守れるように。」
「ま、オレたち2人いれば最強か!」
なんて少し前までケンカしてたはずの悟が肩を組むもんだから、可笑しくてつい笑ってしまった。それから暫く車に揺れると高専へと着いた。
「彼女のお出ましだぞ?」
「おい、揶揄うなよ。」
遠くの方で心配そうな顔をした花子を視認した。