第7章 夏休みは任務です②~大人の階段登る編~
「あー疲れたぁ!」
「悟、足はちゃんと下ろしな。」
「へいへーい」
都内の奥地まで車で揺られて連れてこられた廃墟ビルの呪霊は確かに強かった。ただ、オレたち2人の手にかかれば倒せない相手では無かった。
むしろオレ1人でも、傑1人でも倒せたんじゃないかと思う。そう、とどのつまり、みんな弱すぎるのだ。でもこんな事を隣にいる傑を前にして言ったらケンカになってしまうし、(無下限使えるキミはチートみたいなもんだもんなあ、とか言われる。)この会話の先はめんどくさいことしか見えないので話すのを辞めた。
そうして補助監督の松野さんの車に乗りこみ、高専へと帰る途中だ。
「にしても悟、今日はちょっとばっかし荒くなかったか?」
「そうか?」
とぼけたように質問をしてくる傑に、とぼけたように返事を返す。もちろんそうなった経緯なんざ言われなくても分かっているし、傑だって分かっているはずだ。故に、そんな聞き方をしてくる彼に苛立ちは増す一方だった。
「まだなんだって?」
「何が?」
「花子とセ」
そこまで言うとギロリと傑がこちらを睨む。そっちが最初に花子の話を出してきたんだから、これくらい煽ったってバチは当たらないだろう。
でも親友とはときに厄介で。
何かと競い合ってしまうのはどうしてだろうか。
「私は悟とは違ってね、慎重派なんだよ。」
「どうだかね〜ビビってるだけじゃねぇの?」
「色んなオンナに手を出す猿よりかはマシだろう。」
「あぁ?」
「何か間違ったことでも言ったかい?」
任務が終わりお互いに疲れていることも相まってか、言い合いに発展するのに時間はそうかからなかった。そんなオレと傑のやり取りを見て、運転している松野さんが、オロオロとするその様にも何故だか腹が立つ。
「逆に聞きたいね。術師のくせして、よくもまあ恋愛ごっこができるな。」
「術師であるまえに、私たちはただの高校生だよ。恋愛くらいしたっていいじゃないか。」
こういう話になったら、オレと傑の考えはとことん合わない。そしてドがつくほどの正論を並べる傑には心底嫌気がさす。
それに加え昨日の花子のこともあり、とてもじゃないが黙って話を聞けるような素直な心は持ち合わせてなどいなかった。