第7章 夏休みは任務です②~大人の階段登る編~
『謝った方がいいのか?・・・いや、でも私悪くないよね?』
硝子と話して夏休みの毎日の訓練を終えた私は、屋上で五条に謝るべきか否かを一人でひたすらに考えていた。
ちょっとだけイライラしてつい言いすぎてしまった部分ももちろん自覚はしている。そもそも五条と言い合いをしたたかったわけじゃない。ただ、そのオンナ遊びを辞めて欲しかっただけなのだ。
そもそも、だ。
違う香水をした同じ女性の可能性だって、昨日五条と話すまではあった。しかし昨日の口ぶりからして、きっと当初の予想通り遊んでいるのは違う女性なのだろう。
『関係ない・・・か。』
確かに私は五条の彼女でもないし、友達が五条に弄ばれたわけでもない。私が口を出すようなことでもないと言われてしまえばそれまでだ。お父さんと同じクズになってしまうことに、嫌悪感を強く感じたから辞めて欲しかった、それは私の言い分に過ぎないわけで。
『五条は知らないしな。』
やっぱり謝ろう。
たった4人しかいない仲間なのに、揉めてる場合でもないし、何より任務に支障が出てたら元も子もない。
任務に支障・・・・・。
そこで私は漸くはっとする。今日の任務、前もって傑から聞いていた情報によれば、随分と手強い呪霊(1級かそれ以上が複数体)がいる雑居ビルらしい。なんでも送られた先輩術師が何人も怪我をして帰ってきていて、応援で急遽参加になったのだ。
“「私と悟がいれば向かうところ敵無しだ、問題ないよ」”
そんな風に傑は言っていたけれど、危険な所に行くことには変わりはない。それなのに私ときたら、前日にしょうもないことで五条とケンカをしてしまった。
・・・どうしよう。
絶対なんて絶対にない。もし私とケンカしたせいで五条の呪力がブレて、怪我でもしていたら・・・傑もいれば大丈夫だとは思うけれど、でも相手は・・・。
そう思ったらいてもたっても居られなくなった私は、急いで屋上から階段を一気に駆け下り、校内を全力疾走で走り抜けた。
「どうした、そんなに慌てて。」
『2人が帰ってくるまで待ってようと思って、』
本日の喫煙所で一服をしている硝子がいたが、止まることはせず、またね、とだけ言い残して校門までできる限りの最短距離で走り抜けた。