第6章 夏休みは任務です①~お手並み拝見編~
『・・・眠れない。』
試験を終えて高専に戻ってきてからも、一度放出しだしたアドレナリンはそう簡単に収まるはずもなく。ドクンドクンと高鳴る心臓の音がよく聞こえてきた。
まだ夜の8時。
傑のところに行こうかとも思ったけれど、明日は傑と五条の任務があるし、何より傑の部屋へは“入るな”と忠告を受けているため何となく行きにくい。
硝子は硝子で気を遣ってくれているのか、“一人でしっぽりと呑みたい気分なんだ”なんて高校生が言わないようなセリフを吐いて夕方から早々に部屋に篭ってしまった。
『ジュースでも買いにいくかぁ、』
部屋を出て、共有スペースにある自販機でオレンジジュースを買いに行った。みんな居ないのかと思うくらいに、廊下はシンとしていて、いつもと変わらない寮なのになんだか少し不気味に思えた。
念の為言っておくが、別にオバケが怖いとかそういう話ではなく、みんなが揃いも揃って静かなことが怖いのだ。五条はもしかしたら(いや、もしかしなくても)出かけているのだろう。だってアイツがこんなに静かにできるなんて不可能に近い。
『いや、どうでもいいかー・・・、』
オレンジジュースを飲みながらソファで1人体育座りをして、大きな一人言は独りで宙を舞う・・・はずだった。
「なーにがどうでもいいって?」
『うぇ?あっ、五条!』
「何なにナニー?そんなに驚いちゃって、」
そう意地悪そうに笑う(腹立つ)五条は、よそ行きの格好をしていて(見てくれだけは良いから更に腹立つ)一目で街へ繰り出たことが分かった。
買い物でもしていたのか、聞こうと思ったのも束の間。私の隣に腰を下ろした際にふわっと香る、鼻の奥を刺すような香水の匂いで五条がどこでナニをしてきたのかまで手に取るように分かってしまった。
前にもこんなことがあった。
きっと、いや多分・・・絶対オンナの人と会っていて、そういうことをする間柄の人がいるのだ。今の今までそう思っていたけれど、どうも前のときとは香水の匂いが違う。
彼女が違う香水を使っている可能性もあるが、五条の性格を考えると色んなオンナの人を誑かしているんじゃないか、そう考える方が自然だった。