第6章 夏休みは任務です①~お手並み拝見編~
「まさか、花子が15分で祓(かたづけ)てくるとはな。」
『うん、自分でもビックリしてる。』
「漏らして泣いてくるかと思ったけど。」
『・・・。』
「これで花子もクズ共と同じ1級か?」
『いや、まさか。たまたまだよ・・・ほんと、たまたま・・・。』
たまたま運が良かった。それだけだ。
祓っている瞬間は、自分の身体も頭の中も何もかも全てが自分のものじゃないくらいに勝手に動いていて。本当に自分が祓ったのかさえも疑わしいくらいだった。
まさに、頭で考えるより先に身体が動いていたという言葉が当てはまるくらいにぴったりで。
まぐれなような気もするし、修行の成果(そうであって欲しい)な気もした。だからなんとなく、傑と硝子に褒められても素直に喜べない自分がいた。(もちろん馬鹿にしてくる五条は論外。無視。)
ただ気になったのは、高専へと戻る車内で夜蛾先生がずっと黙ったままなことだ。何か隠している。それはここにいる誰もが気が付いていたし、かくいう私も、粗方その理由は検討がついていた。
『先生、私試されてたんですよね?』
「・・・。」
『いくら修行したとは言え、いきなり1級1体と2級2体って随分生き急いでる気がして。』
「・・・。」
その問いに何も答えないことが、もう既に答えになっていたし、3人もあからさまにアイコンタクトを取っていて、先程まで予想していた考えは間違えのない事実なんだと理解できた。
「・・・正直、お前の術式はよく思われていない。」
『どうしてですか?』
「アイヌの血を引くものしか、オマエの術式は使えないんだ。そして私たちとアイヌは手を組むこともあるが、現状そうじゃないことのが殆どだ。それがどういうことか、お前らだって分かるだろう?」
『・・・。』
「長いものには巻かれる。そういうことだ。」
突き放されたような言い方に悔しい気持ちもあったけれど、運転席で歯を食いしばる夜蛾先生のその顔を見たら、彼もまた私と同じように、いやそれ以上に苦しんでいる気がして、理解のある生徒を演じるのが精一杯だった。
『この力は嘘じゃない・・・と思いたい。だからもっと経験詰んで、誰よりも先に私が特級になる。』
そう息巻けば、貧弱だったくせに生意気と五条に返された。