第6章 夏休みは任務です①~お手並み拝見編~
「どうだい気分は?」
『ぜ、全然平気。ちょっと色んな声聞こえてくるだけで、』
「ビビって漏らしそうだろ?」
『うるさいっ!!』
「まっ、なんかあったら私がパパって反転術式で治してやるから心配すんな。」
『硝子のそれが一番怖いよぉ。』
ついにこの日が来た。
北海道から帰ってきて早数日。今日は、私の実力がどれほどまでのものなのか確かめるためのテストを行う。要は入学試験と同じで、目の前にそびえ立つ錆びれた雑居ビルにいる呪霊を祓えば良いのだ。
テストはもちろん私一人で行い、万が一の為に帳の外で夜蛾先生と傑それから五条が待機。(実際のところ傑も五条もお呼びではないのだが、勝手についてきた。)そして億が一に備えて硝子も一緒だ。
『・・・怒ってるよ。音がもう、怒ってる。』
夜蛾先生や偉いおじさんたちが話しあって、山田さんの言っていた通り、私は成長する為にもその声を塞ぐことを禁じられた。高専内は結界で護られているからもちろん耳障りな声は全く聞こえない。
しかし一歩結界の外に出て人の多い場所に行けば“秘密の部屋”ほどではないが、その声たちはたちまち私の脳内に侵入してくる。もう慣れるしかない。そして今は目の前にいる呪霊を祓う。それだけだ。
「「「行ってこい!」」」
3人に背中を叩かれ、深呼吸を一つすると直ぐに帳は降りた。
『・・・できる、できる、できる・・・。』
帳のせいで薄暗くなったビルで一人、不安をかき消すように暗示をかける。そして耳を澄ませば奇声だったその声が段々にクリアになって言葉として脳内へ流れ混んでくる。
「・・・タ・・ス・・ケテェ、」
「ウールーサーイー、ダーマーレー」
「シズカニシロオォォ」
ちゃんと聞き取れる声は3つで、凡その呪霊のレベルと位置を把握することはできた。1つ目は“助けて”なんて弱弱しい声に相反してこの中で一番強い呪霊。2つ目と3つ目は同等の強さだが、1つ目と比較すると少し劣る。
これらの呪霊は間違いなく強くて、自分に本当に祓えるのかと一抹の不安が残る。刀の変わりに竹刀を持ち、声のする方へと足を進める。
「ク、クルナァァアァァァー」
『なっ!』
目の前から勢いよく走ってくるその呪霊はこの中で一番強いソレだった。