第1章 転校生は・・・オンナ
『良く分かるわ、あなたの事。でもごめんなさいね。憑魂聴術・哀。』
彼女は悟の忠告も聞かずに、キィーキィーと叫ぶ呪霊と会話をし、距離を縮める。それが彼女の術式のようで、一通り呪霊との会話を終えると、呪霊の身体のどこかを優しく触れるだけで、まるでガラスが割れるようにパリパリと音を立てて呪霊たちは消えて行った。
しかし、今回は少しばかり違った。
呪霊は見事に祓えたのだが、等級が上がったが故祓われる最後の最後にその呪霊は彼女を吹き飛ばしたのだ。
『っう!』
「「危ないっ!」」
攻撃を真に受けてしまった転校生は弧を描いたように宙を舞う。だから弱いヤツは嫌いなんだ、と舌打ちをしながらも悟が私とほぼ同時に(認めたくはないが少し私より早いか?)走りだした。
「っ、ギリセーフ。」
床に叩きつけられるギリギリのところで転校生を抱きとめたのは、悟の方だった。なんだかんだ文句をつらつら並べても、こうやって人を助けるあたりやっぱり彼は良いヤツなんだと思う。
「悟、帳が上がった。転校生は無事か?」
「あぁ、無事だ。気を失ってるだけで生きてるよ。」
なら良かったよ、と付け足し転校生の顔を覗きこむ。奇麗な白い頬には似合わず真っ赤な血が流れていた。その血を自分親指の腸で掬うようにふき取る。
「無事って、頬を怪我しているじゃないか。しかも熱もありそうだぞ?呪いか?」
「いや、呪いを当てられた感じはしない。」
「兎に角、急いで高専に戻って硝子に治してもらおう。」
真剣に話をしている私をよそに、悟はニヤニヤと笑う。言いたいことはわかる。良いヤツなんて言葉は前言撤回だ。
「へぇ~、傑くんはこういう地味で、エッチとかには従順そうな子が好みなのかな?ん?ん?」
「そうか、悟、帰ったらケンカしたいってことで間違いはないかな?」
「うげ~、冗談じゃん。」
「もっとマシな冗談を悟は覚えた方がいい。」
私がそう言うとへいへいと気のない返事を1つした。言ってやりたいことは山ほどあったが、一旦は全てを飲み込み、松野さんの車へと足早に戻った。