第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「良いのか〜?アレ。」
「どれ?」
「分かってるくせに、オマエの彼女だよ。」
「まぁ良い気はしないけど、悟だしね。」
「その胡散臭い笑顔が怖いんだよな。」
と、タバコの煙を吐いた硝子が鼻で笑う。
朝起きて花子の部屋に行くと、そこは既にもぬけの殻だった。どこへ行ったのか散歩がてら歩いているうちに、硝子の本日の喫煙所を見つけ、その視線の先へと目を移せば、探していた花子が悟と寝転んで楽しそうに話しているところだった。
もちろん相手が悟と言えど良い気などしない。私の事をオトコとして彼氏として意識しているから、昨日の反応だったことは理解しているが、クラスメイトとは言えオトコである悟を前に無防備で警戒心が皆無な恋人を見てしまったら、心中穏やかではいられない。
流石にこちらまで2人の会話は聞こえないが、目を細めて笑ったり、ときどき頬を膨らませて怒ったりする花子はとても楽しそうに見えた。サングラスをかけている悟でさえ、左右にあがる口角から笑っていることが容易に分かった。
「悟もあんな風に笑うんだな。」
「やっぱり嫉妬か?」
「いや、そうじゃない。」
・・・そうじゃない。
悟も花子に気があるんじゃないか、今までに幾度となくそう思ったことがあった。例えば、ちょっとした意地悪や花子を見る瞳。そこには好意があるようなそんな気がしていたがそれは今、確信へと変わった。間違いない。悟も花子が好きなんだ。
「面白くなってきたじゃん。」
硝子は2本目のタバコに火をつけながら、ちらりとこちらを見る。面白いなんて思ってるのは硝子だけで、こちらは内心気が気じゃない。もちろん手放すつもりは毛頭ないけれど、選ぶ権利は花子にある。
実際悟はよくモテる。街に繰り出てお姉さんを捕まえられるくらいには、顔だけは良い(褒めてる)。
花子が悟を好きになる可能性が絶対にないなんて保証はどこにもない。
「私もうかうかしていられないね。」
「やっぱり面白いな。」
「そういう硝子は、石油王とやらは見つかったのかい?」
「見つかってたら間違いなくここにはいないよね。」
見つけたらぜひ紹介してくれ、そう言うと硝子はヒラヒラと手を振り歩き出した。