第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「・・・だいぶマシになったじゃん。」
『修行してきたからね。』
「ま、まだまだオレには勝てねぇだろうけど。」
『うるっさい、』
あんなに嫌だった五条との体術も、修行の甲斐あってか吹っ飛ばされる回数は格段に減った。北海道へ行ったことは自分にとってとてもプラスになったのだと改めて分かることができた。
『・・・でも、高専(ここ)のがいいや。』
芝の上に2人で大の字に寝転び、時折通り抜けるそよ風に身を委ねた。五条といるとついつい口喧嘩に拍車がかかるが、散漫した脳内をリセットするのには好都合だった。
「・・・そんなにハードだったのか、山田さんとこは。」
『ハードって言うよりかは、恐かった・・・かな。』
「あの“秘密の部屋”か?」
『うん。薄暗くてかび臭いだけでも恐ろしいのに、呪霊が一斉に話し出すんだよ?』
「そりゃ漏らすわな。」
『だーかーらー、漏らしてないわっ!』
何回このくだりやらせるの?
と少し語気を強めて言い返すと、五条は悪い悪いなんて(悪いなんて1ミリも思っていないくせに)笑いながら謝った。
「んで、もっかい聞くけど、なにかあった?」
『・・・、』
「見てて鬱陶しいくらいに背中が暗いんだよ、オマエ。」
なら、見なきゃいいじゃないか。
そう口から溢れ出そうになった言葉たちは、溜息と混じりながら宙へと消えた。
結論から言えば、話したくない。
経験がなくてビビっているなんてとてもじゃないが言えたもんじゃない。増してや五条になんて言ったらゲラゲラとお腹を抱えながら笑われるのがオチだ。
この場をやり過ごすために嘘でもつこうかと、横に寝そべるオトコのサングラス越しの蒼い瞳に目を向ける。けれども嘘を吐こうもんならすぐに気付いてしまう見透かしているその瞳に、私は滅法弱い。
もう一度深く長い溜息を吐いたあと、私は結局素直に昨日の話を打ち明けたのだった。
「っんだよ。しょーもなっ。」
『しょーもなって、こっちは真剣に悩んでるんだからね?』
「まじでしょーもねぇわ。」
『うるっさい!』
こうなるから言いたくなかったのだと、口を開いた瞬間だった。
「でも、しょーもなくて安心した。」
ポンと頭を撫でる五条にまたもや私の思考はショートした。