第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「・・・・・わっ!!」
『うわっ!!!』
「ビビってやんの。」
『なんだ、五条かよ・・、』
早朝から一人ランニングをする花子の背中は、遠目からでも分かるほどに元気がなかった。そんな彼女に声をかけたのは、単に心配していたのもあるが、それよりもなによりも昨日のその後どうなったのか知りたかったからだ。とどのつまり一線を越えたのかどうかが聞きたくて聞きたくて声をかけたのだ。
しかしそんな思惑とは相反して、背中だけじゃなく全身から負のオーラがまとってた。そしてよくよくその顔を覗き込めば、目の下にはうっすら隈ができていて。
・・・まさか、夜通し!?傑のエッチ!!!
なんて思ったのも束の間。パッとしないその表情(かお)に揶揄いたかった気持ちは一気に減退した。
「・・・なんかあった?」
『んー・・・ちょっとね、』
「この最強様が話を聞いてやってもいいぜ?」
と、ちょっとふざけて見せたのは、もちろんわざとで。それで花子が話出せるならばそれに越したことはない。しかし待てど暮らせど花子の口は開かない。まるで糸で綺麗に縫い合わされたように、しっかりとその口は塞がれていた。
余程話したくないと言うのはこのオレにだって理解はできた。それでもせっかくオレと硝子で御膳立してやったというのに、揃いも揃って何をしていたんだという気持ちがなかなか拭えきれない。
「昨日、あれから傑と何かあった?」
『はっ?な、な、なにもないけど!?』
頬を赤らめてあからさまに動揺したその姿を見て、何もなかったと思えるはずもなく。慌てふためく花子の横で、自然と自分の口角は上向きに上がる。そうして沸々と揶揄いたいという気持ちが、再び芽を出し始めた。
「へぇ〜。それはそれはさぞお愉しみだったんだね。」
『ばっ!!何言ってんの?』
「どうだった?傑の傑は?」
『まじで1回ぶっ飛ばすよ?』
「やれるもんならやってみな?まぁ、オレには無下限(バリア)があるからね。」
『望むところだね。』
そう笑う花子と、久しぶりに手を合わせる。もちろん格下相手に無下限(バリア)は使わない、オレは優しいからね。なんて言葉は優しさじゃなく煽りへと変わり、視線が交わった瞬間に互いに動き出した。