第5章 アツい夏は青い春に決まってる
『・・・っ、』
ゆっくりとくっついていた唇と鼻先が名残惜しそうに離れていく。いつの間にか傑の腕の中に閉じ込められていた私は、自ら彼の胸へと顔を埋めた。
「可愛いな、花子は。」
なんて硝子みたいなことを言いながら傑は、私の頭をポンポンと優しく撫でる。キスする前は“「我慢できそうにない」”なんて言ったくせに、その後の余裕そうな態度に少しだけ腹が立った。
当の私はと言えば、口から心臓が飛び出てしまいそうなほどにドキドキしているし、傑のような余裕も無ければ目を合わせる勇気すらもない。
「ねぇ花子、もう1回いい?」
『えっ、ちょっ・・・っん、』
YESだなんて一言も言っていないのに、傑は唇を掬うように下から再びキスをした。しかも今回のキスはいつもと違う、大人なやつだった。
『・・・っん、・・・っ・・んっ、』
リップ音を立てながら舌を絡めて貪るような傑のソレを、追いかけるのがやっとで。繋いでいたはずの手で力強く抱きとめられたら、身動きは取れなくて、甘くて蕩けてしまいそうな長いキスに身を委ねる他なかった。
一体どれくらいそうしていたのだろうか。
息が苦しくなりだんだんに肩で息をしている私に気が付いた傑が、思い切り身体を離した。
「す、すまない。」
『・・・っ、』
「大丈夫か?」
『いいよ、なんて言ってない。』
頬を膨らませ少しだけ怒った口調で言うと、いつの間にか滲んでいた涙を傑は親指の腸で優しく掬う。そして困ったように眉を下げて笑う。
「ごめん。」
『・・・。』
「でも私だって始めに言ったじゃないか、我慢できそうにないって。」
『うっ、』
「でもごめん。これからはちゃんと返事を待つよ。」
ほんとに悪いと思ってる、なんて可愛い顔をして言われてしまったらもちろん許すしかない。それに急にキス(しかも大人なやつ)されたことにビックリしてしまっただけで、実際のところ嫌な気はしなかった。
むしろそれどころか、もっとして欲しいなんて思っている自分がいて。こんなこと思っているなんて知られてしまったら恥ずかしくて堪らないから、口が裂けても言えないけれど。
『硝子たち待たせてるし、早く行こう。』
話を逸らしたくて今度は私が傑の手を引いて、歩き出した。