第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「硝子、オレたちはそろそろ部屋に戻ろうぜ。」
「え?今?花子と夏油にコンビニに行かせたのに?」
「だってオレらがいたらアイツらも積もる話ができねぇだろ?」
「なんだ、五条のくせに珍しく気がまわるじゃん。」
硝子は飲みかけの缶ビールを口につけると、ニヤリと笑った。そんな彼女の言いたいことは、まあ大方予想は出来ていた。
「オマエだって本当はもっと花子と話したかったんじゃないのか?」
「いや、別に。それにどうせまた嫌ってほど毎日のように顔を合わせるだろうし。」
「ふーーーん。」
オレの答えに納得なんてしていないと言わんばかりの顔で、硝子は縦に何度か頷く。もちろん硝子の言う通り、もう少し花子を揶揄って怒らせてそんな姿を見て笑って・・・なんていう欲がない訳でもない。
でもやっぱり花子にはそんなことよりも、多くの時間を傑と共有した方がいいに決まっている。だってオレたち若者には青春を謳歌する権利がある、例え呪術師だろうと。
だからっていつ死ぬかも分からない(最強だし死ぬ気も毛頭ないけど)のに恋人を作る気にはなれないけれど、何も恋だの愛だのだけが青春じゃない。オレはオレのやり方で、今をまぁそれなりに楽しんでいる。
傑がいて硝子がいて花子がいて。
きっと大人になって真先に思い出すであろう青い春は、間違いなく今この瞬間だと胸を張って言えるだろう。もし他のみんなも同じ気持ちだったならこの上ないし、そうであって欲しいなんて願うのは少し欲張りな気もする。
なんて柄にもなく感傷的に思ったりした。
「まさか五条がそこまでとはな。」
「何の話だ?」
全てを見透かしたような目で、硝子に見つめられるが、何の話なのか検討もつかない。硝子は、最後に缶ビールを一気に飲み干すとこっちの話、と含みもたせながら笑った。
「あー片付ける気力が起きないな。」
「同感。」
「このまま部屋に戻ったら夏油に怒られるかな?」
「いや、むしろ感謝されたいくらいじゃね?2人きりにしてやったんだぞ、オレらが。」
「確かに。じゃあ、いっか。このままで。」
こういうときの息は驚くほどに合う。硝子はオレたちのことをクズなんて呼ぶが、オマエも大差ないぞ、と出かけた言葉は飲み込んだ。