第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「・・・行こうか。」
『う、うん。』
部屋を出て2人きりになるとほんの少し緊張してしまい、返事一つ返すだけでも声が上擦る。加えてなんの躊躇いもなく手を絡めるように握る彼に、私の心拍数は右肩上がりだ。
シャツやズボンから見える鍛えぬかれた傑の腕や足が、いつもに増して妙にオトコらしい。初めて見た訳でもないし、そもそも体術ではその身体に幾度となく触れてきたはずなのに。今日はなんだかドギマギしてしまう。その理由が分からない程私だって馬鹿じゃない。
・・・傑に恋をしている、これが恋なんだ。
今まで問いたどんな問題よりも簡単な程答えはすぐに導き出された。
そんな私の脳内がお花畑のように浮かれているなんて到底知る由もない傑が先に口を開く。
「・・・気分はどうだい?少しは良くなったかな?」
『ね、寝たから、も、もう平気。』
「なら良かった。」
あいも変わらず上擦ってしまう声を懸命に隠し、木が生い茂る長い長い一本道を歩き校門を目指す。そんな私の心の内に気付いたのか否か、傑はお得意の胡散臭い笑顔を貼り付け話を続ける。
「もしかして花子、・・・緊張してる?」
『ま、まさか!き、緊張?私が?そんなわけ・・・ないっ・・。』
と、見え見えの嘘を吐いてみるも、すぐ様傑は足を止め屈みながら私の顔を覗き込む。そうして顔の中心に集まった熱は簡単にバレる。グッと近くなった距離に、思わず後ずさる。
「照れてる姿も可愛い。」
そう呟きながら、傑は空いている手で私の髪を耳にかけ、執拗に中指で首筋から鎖骨を優しくなぞる。再びもう2歩ほど後ずさると、そうはさせないと言わんばかりに繋がれている方の手に力が入れられ、それ以上離れることは出来なくなった。
「・・・いい加減こっち見てよ。花子。」
頭上から降り注ぐ優しくも苦しそうな声に、おずおずと顔をあげる。言われてみれば部屋を出てからというもの、地面しか見ていなかったことに気が付いた。
「やっと目が合った。」
『・・・っ、』
「・・・ごめん。我慢できそうにないや。」
目が合うや否や困ったように笑った彼の手が首筋に這うと、優しく引き寄せられ私の唇に生暖かい彼のソレが重なった。
それはほんの一瞬のうちに起きた2度目のキスだった。