第5章 アツい夏は青い春に決まってる
「聞いたぞ、花子。」
『ん?』
「夏油と付き合うことになったんだってな。」
『な、なんで、それを。』
動揺した私を横目に、硝子はニヤリと悪い顔で笑う。思わず飲んでいたオレンジジュースが、口から零れそうになった。
「夏油から聞いた。それはもう喜色満面って言葉が当てはまるくらいには、ご機嫌だったぞ。」
『・・・っ、』
「照れちゃって、可愛いなぁ花子は。」
なんて硝子は首に腕を回しながら、傑と五条に聞こえないように小さな声で話す。
付き合ってから会うのは今日が初めてだったし、ましてやその相手が、手を伸ばせば届きそうな距離でゲームをしているのだ。そりゃ、照れもするだろう。
人の気も知らず、硝子の意地悪は続く。
「今日はもうキスしたのか?」
『ばっ、し、してないよっ!!!』
「「どうした?」」
思いっきり私が大きな声を出してしまうと、すぐ様振り返った傑と五条の声が重なる。それと同時にゲームオーバーになる電子音が部屋に鳴り響いた。
『・・・すみません、何でもないです。』
クスクスと笑う硝子の横で、顔の中心に集まる熱を感じながら謝ると、どうやら負けたのは傑の方で、五条のテンションは急にあがった。
「負けは負けだからな、傑。」
「あぁ、分かってるさ。私が行くよ。」
『どこか行くの?』
傑に聞いた私の問いに、ご機嫌な五条がコンビニ、と嬉しそうに答える。
「悟とコンビニに買い出しを賭けて勝負してたんだ。」
『そうなの?ごめんっ。』
「ってことで、オレはカップラーメンで。あ、塩ね。」
「私は酒とつまみ追加で。」
「あとメロンソーダ2本買ってきて。高専の自販機に無いんだよなぁ。」
「あ、花子も一緒に行ってきたら?いいよね、夏油?」
「『・・・。』」
「それがいいね、花子も行くんじゃ、メロンソーダ追加で2本頼むわ。」
そうして珍しく息のあったやり取りをした硝子と五条に上手く乗せられてしまった私たちは、彼らの思惑通り一緒に部屋をあとにした。
2人になりたかった傑といざ2人きりになると、少しだけ緊張してしまう。これもきっと恋の醍醐味なのだろう。自分でも分かる鼓動の速さを隠すように平然を装う。